→はい

 ・

 ・

 ・

「ユリアさーん」


 ぼくは声をかけるのが苦手なので、マイケルの背中を、ぎゅう、と押して、マイケルにそう声をかけてもらった。


 ユリアさんは、びくっと、身を固めてから――。

 さささっ、と、テーブルの上のコインの山を布で隠した。


「な、なにかしら……? カイン、マイケル? ま、また……、悪さでもしたの? また、懺悔ざんげでもしにきたの? もう……、しょうがないわね。じゃあ、教会のほうで聞いてあげるから……、先にあっちに行っていてくれる?」


 ユリアさんは、そう言った。


 ええと……。


 ・

 ・

 ・

 →「いいえ」


「えっ? なんでっ? ――懺悔にきたんじゃないの? ねえ? 向こうで聞いてあげるから……、先に、あっちに行ってまっていてくれる?」


 ・

 ・

 ・

 →「いいえ」


 ぼくは再び、首を横に振った。

 ここは「いいえ」だ。断固として「いいえ」だ。


「えっ? ええと……、ええと……、ええと……」


 ユリアさんは、目をぱちぱちとしながら、ぼくを見つめて――。


「んと……、バレてる?」


 気まずそーに、そう聞いてきた。

 4つも年上の16歳のお姉さんなのに、なんだか、一瞬、年下みたいに見えてしまう。

 かわいい。とかいったら。怒られてしまうかな。


 ユリアさんは、コインの山をすぐに隠していたけど。

 ぼくたちは、ずっと前から見ていたわけで――。

 1枚足りなくて、ユリアさんが眉間に縦皺を寄せるところとか――。お金を数えているユリアさんが、なんだか妙に楽しそうで、幸せそうだったところとか――。


 ぜんぶ、見ていた。

 どこのところが「バレてる?」なのか、よくわからないんだけど。


 ぼくは、こくんとうなずいた。


 そして隣のマイケル先生が――。


「ユリアさーん。カインが371G、貸してってさー!」


 ぼくにはとても言えないことを、平然と言ってのけた。

 マイケルのこういうところ、すごいと思う。


「え゛っ……?」


 ユリアさんは、固まった。


 しばらくして、動きはじめると……。


「生きとし生けるものに、皆、神のご加護があります。

 当教会に、どんなご用ですか?


 おいのりをしますか?

 お告げをききますか?

 毒の治療ですか?

 それとも、どなたかの、復活ですか?」


 ユリアさんは、薄い微笑を浮かべながら、そう言った。


 ユリアさんが、なんかへんになっちゃった……。

 てゆうか。「ふっかつ」とか、できたんだ。

 ほー。へー。はー。


「おいのりですか? お告げを聞きますか? それとも、懺悔ですか? 懺悔ですか? 懺悔をしていきますか?」


 ユリアさんは、笑顔を向けてくる。

 ぼくたちは、ぴゅーっと、退散した。


 ユリアさんから、お金は、借りられなかった!

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