ターン21「ユリアさんとお金」

 おかねー。おかねー。

 おかねー。が。ないゆー。

 るー。るー。るー。


 作詞・作曲・ぼく。

 「おかねがない歌」――を、口ずさみながら、ぼくは、とぼとぼと村のなかの小道を歩いていた。


 マイケルは、なにか、目当てがあるらしく、頼もしい足取りで、先を歩いている。

 ぼくは、とぼとぼとマイケルのあとをついて行く。


 マイケルは、なんでか、いつでも自信満々だ。

 たまにうらやましく思うこともある。


「つぎの目当ては! ここだーっ!」


 ばーん。

 マイケルが、なんかポーズを付けて立ったのは、教会の前。


 うん?


 えっ? ……ユリアさん?

 ユリアさんが、次の目当てなの?


 ユリアさんは、教会のおねえさんだ。

 村の教会には、えらい神父さんがいて、その人の指導を受けながら、シスターとしての修行をしている。

 もうすぐ〝しんかん〟とかいうのになるみたい。ぼくたちより4つ年上なだけなのに、すごい人なのだ。


「ユリアさんはなー。すごいんだぞー。BBAだけど」


 ユリアさんはすごいのはわかってるけど。

 でもぼくの思うそれは、マイケルのそれとは、ちょっと違うかもしれないなぁ。――と、そう思った。


 あと、最後のその言葉、ぜったい余計だよね。

 ユリアさんが聞いたら、シスターがデーモンになっちゃうよね。


「どうすごいのか、いまから言うぞー! 〝きょうかい〟っていうのは、〝きふ〟ってゆーの、集めてるじゃん?」


 そうなの?


「ばっかだなー。おまえ。なんにもしらないんだなー。そんなんじゃ、女の子に、〝マイケルすごい〟って、言ってもらえないぜー? おれなんて、〝えらいわマイケル〟って、フローラにしょっちゅう、言ってもらってるぜー!」


 マイケルは胸を張ってドヤ顔。

 それ「えらい」と「すごい」って、ちょっとニュアンス違うよね。操縦されちゃっているよね。

 あとフローラはマイケル専用だよね。


 それに「すごい」って言ってもらうなら、ぼくは薪割りの仕事で、すごいって言ってもらいたいなぁ。


「んで、その〝きふ〟ってやつは、すごいんだぜー。おかねが、何百枚もあるんだ


 へー。

 じゃあ……、371枚くらい、借してもらえるのかな?


「おれ。このあいだ、ここから覗いてたんだけど。あれは千枚あったかもしれないなー」


 千枚? それはすごいや。


 マイケルが窓枠に手をかけて、こっそりと中を覗く。

 ぼくもこっそりと覗いてみた。


 教会の部屋で、ユリアさんが机に向かっている。

 きのう集めた〝きふ〟というのを、ちょうど数えているところだった。


「996……、997……、998……、999……、ああ、もうっ。一枚足りない……」


 ユリアさんは眉間に縦皺を寄せていた。

 綺麗な顔が、いまだけ、ちょっと怖い。


「数え間違いなのかしら? ……昨日はたしかに、千枚あったはずなんだけど」


 険しい顔で、思案中。


「神父さまかしら? いいえ。だめね。神父さまを疑うだなんて……。神よ赦したまえ」


 胸の前でホーリーサインを描いて、


「きっと数え間違いね。もう一度数えないと……」


 ユリアさんは、お金の山を再び数えはじめた。


「もう……。教会の修繕で千枚必要なのに……、困ったわ、もし神父さまが、一枚持っていってたりしたんだったら……、いいえ、だめよね……、信じないとね」


 ユリアさんは険しい顔でお金を数えている。

 なんかちょっと、声をかける雰囲気でもないし、お金貸してとか言い出せる幹事でもないんだけど……。


 声をかけますか?[はい/いいえ]


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