ターン19「誕生日には、ぷれぜんと?」

「聞いたよ。聞いたよ」


 村の通りを歩いていたら、うわさおばさんに話しかけられた。


 この人はちょっと苦手なんだけど……。

 うわさ話に花を咲かせることは、なんか、うわさになっている人に悪い気がして……。おばさんみたいに、楽しめないんだけど。


 だけど無視して立ち去るわけにもいかないので、しかたなく、立ち止まって、話を聞いた。


「あんた。プレゼントはもう用意したのかい?」


 ん?

 ウワサ話のはずなんだけど……? プレゼント? なに?


「なんだい。あんた。プレゼントも知らないのかい? 仲のいい人の大事な日にする贈り物のことだよ」


 そっちを聞いたつもりじゃなかったんだけど……。

 仲のいい人? 大事な日って?


「あたしの聞いたウワサじゃ、キサラちゃんが、もうすぐ誕生日っていうじゃないか」


 そうなの? てゆうか。〝たんじょうび〟って? なに?


「あんた。誕生日もしらないのかい? 生まれた日のことだよ。一年に一回やってくる、いちばん大事な日のことだよ。――あんただって、覚えているだろ?」


 うーん。うーん。うーん……。

 ぼくは、気がついたら、村の前に立っていたし……。

 そのまえのことは、あんまり覚えてないし……。


 なんか、とっても、つらかったってことだけを、うっすら、覚えているだけで……。


 じゃあ、その〝たんじょうび〟っていうのは……。ぼくの場合、村に来た日でいいのかな?

 うん。いいよね。


 ぼくは、こくりとうなずいた。


「ほうら。あんただってあるじゃないか。誕生日。――で、キサラちゃんの誕生日が、もうすぐだっていうじゃない? あんたはどんなプレゼントを用意したのかって――。ほら、おばさんに言ってごらん。いったい、なにをあげるんだい?」


 言いたくないなー。

 てゆうか。

 ぜんぜん考えてないんだけど。

 キサラに〝誕生日〟がくるってことを知ったのも、たったいまなんだけど。


「いいじゃないかー。ここだけ。ここだけの話。……ね? 教えておくれよ? みんなには内緒にしておいてあげるからさー。


 ぜったい。うそだね。


 ぼくは確信を持って、そう思った。


 うわさおばさんに話したら、今日の夕方には、村のみんなに知れ渡っている。

 ぜったいだ。


 それはそうと……。


「え? なんだい? 誕生日って、そんなに大事な日なのかって? あたりまえじゃないか。この世に生まれて来た日だよ。みんなと出会えた日なんだよ。それがめでたくなくて、祝わないっていうなら、いったいなにを祝うっていうんだよ」


 そうなんだ。

 なるほど。そうだよね。

 生まれてきてくれて、ありがとう。きみと出会えてよかった。――っていう日なのか。

 そっかー。そっかー。そうなんだー。


 あれ? ぼく、その〝ぷれぜんと〟とかゆーの、なにもないよ?

 どうしよう? どうする?


    ◇


 うわさおばさんと別れて、ぼくは村の中を歩いていた。


 マイケルの家の前に、たまたま、通りがかって……。

 その一軒手前の家に入った。


「あら、カイン。いらっしゃい」


 笑顔で出迎えてくれたのは、フローラだ。


 フローラは、マイケルの……、友達?

 友達よりも、もっと仲が良くて――。おたがいが、おたがいのことを、好きで――。


 ええと。なんていうんだっけ。そういった関係?

 まあ――、マイケルの〝友達以上〟の女の子だ。


「カインが遊びにきてくれるなんて、めずらしいわ。……今日はどうしたの? なにか大事な用とか?」


 ぼくは曖昧にうなずいた。

 〝プレゼント〟のことを、フローラに聞いてみようと思った。

 女の子のことは、フローラに聞いたらいいと思った。


 マイケルのほうが親しいんだけど……。

 マイケルには、ぜったいに聞いちゃダメだということだけは――わかる。


「え? プレゼント? もらったことあるかって? もらうと嬉しいのかって?」


 ぼくはフローラに聞いてみた。

 フローラのほうは、いきなり変なことを聞かれて、戸惑っている感じ。

 まあそうだよね。立場が逆だったら、ぼくだって、困ってる。


「それ、わたしにじゃなくて――、キサラの話? こんどの彼女の誕生日に、プレゼントしようって、そういう話?」


 うわ。なんでわかるの?


 ぼくはうなずいた。……「はい」だ。


「ん……っとね。女の子はね。好きな――じゃなくて。仲のいい人からもらったプレゼントは、すっごく、嬉しいのよ」


 フローラはそう言った。

 そうなんだ。


「わたしも。昔ねっ。マイケルから、プレゼントをもらったことが、一度だけあってね……」


 フローラは自分の手を揉み揉みして、裏返したり表に戻したりしながら、そう言った。


「昔。まだ。ちっちゃかった頃なんだけど。マイケルがねっ。指輪をくれたのっ」


 へー。マイケルが物をくれるなんて。

 指輪って、高いよね?


「クローバーの葉っぱで作った指輪で……。わたし、それ、大事にしてたんだけど。三日で枯れちゃって切れちゃって……」


 もっといいもの、あげようよ……。マイケル。


 クローバーの葉っぱで作った指輪なんかで、よかったの?

 ぼくはそれをフローラに聞いてみた。


「あ。うん……。ホントはね……。ちょっと残念だったりしたかなら……。あっ! 嬉しかったのよ? 嬉しかったのは、ホントなんだから。でも葉っぱじゃなくて、紐とかそんなのだったら、もうすこし長持ちしたしー。ほんとうを言うと――、ほんとはねっ? お店屋さんに売ってるようなものが欲しかったりしたかなー」


 だよねー。お店屋さんには、本物のが売ってるもんねー。


 なるほどー。

 ぼくは、だいたいわかった。


「ね……。ねえ? べ、べつに、お願いってわけじゃないんだけど……。無理だったらいいんだけど……。もし話のついでに、マイケルと男の子同士の話で、そういう話になってたら、ちょっと言ってくれたりしちゃったりなんかしちゃうと、嬉しいかなー、って……。あのね。マイケルにね……。本物のが……。べつに指輪じゃなくて首飾りでもイヤリングでもなんでもいいから――って! ああやっぱり! ごめんなさい! そんなこと言う女の子だって思われたくないから、いいの。言わなくていいの」


 え? なに?

 もういちど言って? マイケルに、なにを言えばいいの?


「いいの! 言わなくていいの! おねがいやめて! いまの忘れて!」


 うん。忘れる。

 ……ていうか。最初から、よくわかんなかったけど。


 フローラは汗びっしょりになって慌てている。

 よく目立つ広いおでこに、汗をかいている。


 最後の話は、よくわかんなかったけど……。

 とりあえず、知りたかったことは、わかった。


 ぼくはフローラに、ぺこりと頭を下げて、家をあとにした。


    ◇


 次に向かったのは――。

 道具屋さん。


 村に一軒の道具屋さんは、村の中で「お金」の使える、数少ない場所だ。


 道具屋さんで売っているものは、旅人や冒険する人向けのアイテムがほとんどだ。


 ぼくもたまに、買い物をする。

 薪割りの仕事で、たまにもらえる「お駄賃」を貯めて、お菓子を買いにきたりする。

 甘い。美味しい。


 お金が貯まると、お菓子になっちゃうから、お金は10G以上は貯まらない。

 お菓子の値段が10Gなのだった。


「おや。今日はなにか買ってくれるのかな?」


 ちょっと太っている店のおじさんは、ぼくを見ると、にこにこと笑って話しかけてきた。


 店で売っているもののリストを、おじさんに、見せてもらった。


    ひのきのぼう

    こんぼう

    たびびとのふく

    おなべのふた


 ……どんどん、どんどん、リストをめくってゆく。


    ヌヒャダ神のおまもり

    カエルのブローチ

    深紅のカーディガン

    精霊石の耳飾り

    精霊石の首飾り


 あった。「指輪」ってのは見つけてないけど。フローラが言ってた、女の子がもらったら嬉しい物のひとつ――「首飾り」というのが見つかった。

 もうひとつ言ってた「イヤリング」ってやつはなかったけど。「首飾り」というもののほうなら、あった! 売ってた!


 ええと……。

 値段は……。


 え?


 380G……?


 いまの手持ちは……、9Gしかない。


 「精霊石の首飾り」を、買いますか?[はい/いいえ]


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