→はい

 ・

 ・

 ・

 きまった。

 見張り。続行。


 遊びに行かない。


「なーなー、遊びに行こうぜー。行こうよー。行こうー。なーなー」


 マイケルは甘えた声を出している。

 愛されキャラになったって、行かないよ?

 だいたいマイケル。キャラが違うよね。君は愛されキャラじゃないよね?


「なーなー。ザリガニ。とりに行こうぜー」


 とりに行きたいけど……、行かない。


「じゃあー、キサラのぱんつ、とりに行こうぜー」


 とるんだ。


「あ。ちがった。見に行こうぜー」


 行かないから。

 だいたいマイケル。そんなことやってたら、またカエルにされちゃうよ。

 こんどは、もう知らないよ。


 マイケルは、まだしばらく、そこで何か言っていたが……。

 ぼくが決意を示して動かずにいると、あきらめて、行ってしまった。


 ぼくは、じいっと、見つめ続けた。


    ◇


 まばたきも惜しんで、じいっと見つめていたら……。

 なんと。夜になってしまった。


 作業場の片隅の、いつも原木が置かれている場所は、まだ空のまま。

 原木が現れる瞬間は、見逃していない。

 するもんか。


 マイケルからの遊びの誘いも断って、見張りを続けてきたのだ。

 その苦労を無駄にしないためにも、ぜったい、原因を突き止めなければ。

 夜も更けてきて、眠くて、眠くて、たまらなかったが……。

 ぼくはがんばって、眠気に耐えた。


    ◇


 うとうと。うとうと。

 ……はっ!


 しまった。

 うとうと、してしまった。


 遠くを見ると――。

 もう空は、うっすらと明るくなりつつあった。

 夜というより、深夜というより、もう早朝っていう感じ?


 ぼくは、はっとなって、作業場の片隅を見た。

 原木置き場は……、まだ、空のままだった。


 よかった。

 居眠りしているあいだに、原木がそこにあったりしたら、ぼくは何のために苦労していたのかわからなくなってしまう。


 ひどく落ちこんでしまっただろう。

 3日くらい落ちこんでいたかな。


 ……1日くらいかな?

 半日くらい?


 ……朝ごはんを食べて、お昼ごはんを食べるくらいまでのあいだは、きっと、落ちこんでいたに違いない。

 そのくらいのショックだ。


 ――と。


 がさっと、音がした。茂みをかきわけて、なにかが近づいている音――。


 ぼくは身構えて、待った。


「おやー? ぼんず、早起きだなー?」


 のっそりと現れてきたのは――髭いっぱいの、大きな体をしたオジサンだった。

 顔は髭もじゃ。

 背がすごく高い。ていうか。体が大きい。

 腕なんか丸太みたいに太い。ぼくの胴よりも太そうだった。

 毛皮を着ていて、上半身は半裸だ。寒くないのだろうか。


 そんな感じの、ワイルドすぎるオジサンは、ぼくを、じーっと見下ろしていた。

 ぼくのほうも、突然現れたオジサンを、じーっと見上げている。


「おう。ぼんず。マジメなやつだなー。もう、木ぃ、なくなっちまったかぁー」


 原木の置いてある一角を見ると、オジサンはそう言った。

 背中にかついでいた荷物を、どさりと、おろす。


 すごい量の――。

 木。木。木。

 そして。木。


「おう。木ぃ、切るのがー、おれのシゴトだしなー」


「おめーは、木を割って、薪にするー。おれはー、木を切ってー、ここにおいとくー」


 オジサンは、ぼくを指差し、つぎに自分を指差し、そう言った。


「木がなけりゃー、薪、作れねーだろー?」


 ぼくは、こくこくと、うなずいた。

 今日は頑張りすぎちゃって、原木がなくなってしまった。薪を割れなくて、困っていた。


「じゃー、なくならねえようにー、また持ってきてやるからー、しっかり、シゴトしなー」


 オジサンは背中を見せると、夜のしじまのなかに、歩き去って行った。


 なんか。……かっこいい。


 原木の謎が、解明された!

 勝手にひとりでに増えてゆくんじゃなかった! 人が持ってきてくれていたんだ!

 これまで何年も薪割りの仕事をやってきていたけど! ぜんぜん知らなかった!

 おじさんありがとう! ぼく頑張って薪割りするから!


 ぼくは早朝から、薪割りをはじめた。

 ぱっかん。ぱっかん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る