→はい

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 マイケルが、手を「しっしっ」と追い払うように振って、「わかれよ」とか言うので、わかることにした。

 正確に言うと、よくわかんないんだけど……。


 二人っきりにしてくれっていう、サインなんだってことぐらいは、わかったので――。


 キサラとアネットとロッカと――女の子たちの服の裾を引っぱって、その場をあとにした。


 建物の角を曲がって、そのまま、村のほうに歩いていこうとすると――。


「ぐえ」


 首をぐいっと引っぱられた。


「ちょっと。どこ行こうとしてんのよ?」

「あっ。いまっ。〝ぐえ〟って言いましたよっ。わたし。カインさんが話したところはじめて見ましたっ」

「あははははー。カイン君ってば、天然だーっ。――こんないい場面、見ないで行っちゃったら、損だよー」


 なんか。色々……言われてる。


 あっち行け、と言われたので、あっちに行こうとしたんだけど……。

 キサラとアネット。二人の反応を見る限り、建物の角を曲がったところで、覗きをするのが〝正解〟であった模様。……でもなんで?


 あと。ぼく。そんな絶対喋らないほど無口でもないよ。たまには話すよ。

 カエルのときには、けっこう、いっぱい、喋ったよ。


「ほら。見なさいよ。アネットじゃないけど。損するわよ」


 キサラにぐいっと、首を絡め取られた。

 角のところに引っぱられてゆく。


 角のところから、覗く。

 下から順に、ロッカ、キサラ、ぼく、アネット――の順に、頭が上下に4つ並んでいる。


 マイケルとフローラは、ぎゅっと抱きあっていた。


 なんか二人で、こしょこしょと、小声で話している。

 なにを話しているのかは、ここからでは、よく聞こえない。


「な。いいだろ。な。な?」


 ――と思ったら、アネットが教えてくれた。

 さすが狩人。アネットは耳がいい。


「だめよ。いけないわ。マイケル」


 こんどは、フローラのほうの内容。


 だけど話の内容はわかっても――。

 なにが「いいだろ」なのか。なにが「いけない」なのか。

 そこのところが。よくわからない。


「さっきは。フローラのほうからしてくれたじゃないか」

「だって。あれは。呪いを解くのに必要だったもの」

「いいだろ。フローラ。いいだろ。俺。フローラのことが、こんなに大切だったって。いま気づいたんだ」


「……って、もう! 聞いてるこっちが、恥ずかしくなるよぅ……。あうううう」


 アネットが顔を赤くしている。


「ぐいぐい行くわね~。マイケルのやつ」

「ま、ま、ま……マイケルさん……。ふ、ふ、ふ、フローラさんのことが……好きだったんですねっ!」


 女の子たちは、物凄くエキサイトしている。


「じゃあ。おでこになら……、いいわ。さっきわたしも、おでこだったから」

「じゃ、じゃあ――」


 マイケルが、フローラのおでこに、チューをした。


 ああ。なんだ。

 なにが「いいだろ」で、なにが「だめよ」だったのか。ぼくはようやくわかった。

 チューをするかどうかの話だったんだ。


 なーんだ。

 ぼくはその場をあとにした。二人っきりにさせておいてあげよう。

 キサラとロッカとアネットの三人は、まだ、陰からこっそり覗いているけど。

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