ターン12「マリオンとカエル」

 空を飛んで――べちゃっと落ちた。


 ユリアさん、けっこう肩が強い。――じゃなくて。


 ここはどこだろう?

 ぴょんこぴょんこ、その場で3回ジャンプして周囲を見回す。

 カエルの高さから見上げる光景は、どうも人間のときと違って見えて、すぐにはどこだかわからなかった。


 たしか鍛冶屋のほうに飛ばされてきたはずなんだけど……。


 マイケルとも離ればなれになってしまった。


 まあ、マイケルはカエルとして生きてゆくことを決めてしまったみたいだし。

 こっちは諦めてないし。そもそも巻きこまれただけだし。


 マイケルについてゆくと、へんなことの片棒担がさせられるし。


 ユリアさん見つけて背中に登るのが作戦だっていうから、やってみたら、作戦は作戦でも、えっちなことの作戦だった。

 カエルになってもマイケルがえっちなのは直っていなかった。


 人間に戻る方法を探して、ぼくは、ぴょんこぴょんこ跳ねていった。


    ◇


 しばらく跳ねつづけていたら、とんてんかん、とんてんかん、と、馴染みのある音が聞こえてきた。


この音は知ってる。鍛冶屋の音だ。


 音のする方向に跳ねてゆくと、鍛冶屋が見えてきた。

 物を登って、壁を登って、開いた窓から、中を覗いた。


 鍛冶ハンマーを振るっているのは、おじさんじゃなくて――なんと、マリオンだった。


 ほー。へー。はー。


 ぼくと同い年で12歳なのに、もう鍛冶の仕事をやってるんだー。すごいなー。


 カエルの姿のまま、ずっと見ていると――。

 マリオンは鍛冶の練習をしているのだと思った。なにかを作っては、ぶつぶつとつぶやき、「ちがう、こうじゃない」とか言って、また潰しては、作り直し。


 おじさんがやると、一発で形ができあがるのに、マリオンがやると、うまくいかない。


 そんなふうに、ぼくがマリオンの仕事ぶりを眺めていると――。

 額の汗をぬぐった彼女が、ふいっと視線をあげて、こっちを見た。

 カエルのぼくと、目が合った。


 ひっ――。


 短く息を吸う音。


 あ、きたかな。これって――?


「か、かえる……!?」


 マリオンは息を呑んで立ち尽くしている。

 たいていの女の子はカエルが嫌い。

 マリオンも「きゃー!」って言うのだろうか。


 ぼくはまた投げ飛ばされるのだろうか。

 それとも手にもったハンマーを投げつけられる――なんてことはないよね?


 ちょっと覚悟して、ヘビににらまれたカエルみたいに、冷や汗をたら~り、と垂らしながら、マリオンのリアクションを待っていると――。


「え、えと……、そ、そこで見てるだけなら……、いいよ。こ、こっち来ちゃ……だめだよ?」


 あれ? 悲鳴がない。ハンマーもない。

 カエルが苦手なのに、ここにいること自体は、許してくれた。

 マリオン。優しい。


 とんてんかん。とんてんかん。

 彼女は鍛冶の仕事を再開した。

 仕事なのか、練習なのか、はっきりしないけど……。


 一生懸命だということは、わかる。


 窓枠のところに、ぺたんと座って――。

 一生懸命なマリオンを、じっと見ていた。


「あたしさー」


 不意にマリオンが話しはじめる。

 ぴょんこ、ぴょんこと、向きを変えて、あっちとこっちを見てみたが、部屋には誰もいない。

 いや。カエルのぼくしかいない。


 ぼくに話しているのかな?

 でも。ぼくいまカエルだよ。


「あたしねー」


 マリオンがまた話しかけてきた。

 カエルのぼくには、返事ができないので、黙って聞くことにした。


「こうやって、練習して、お父さんみたいな、立派なかじ屋になりたいんだ。だからこうして、マネ事してるんだけど……。だけど、ぜんぜん、お父さんみたにうまくなれなくて……。お父さんも、女が鍛冶の仕事するなんて、へんだって言うんだけど……」


 なんか重たい話、はじまっちゃった?

 マリオンはカエルに人生相談をしている。

 ああそうか。ぼくのことをカエルだと思っているから、これはきっと、ひとりごとみたいなものなんだろうな。


「ねー。カエルさん。どう思う? ……あたしって。……どうだろう? かじ屋の才能……、あるのかな……」


 あれ? これ、質問?

 ええと……。どうやって答えたらいいんだろう……。


 首を縦に振りますか? [はい/いいえ]


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