ターン11「ユリアさんとカエル」

 ぴょんこ。ぴょんこ。


 カエルとなってもめげないマイケルの後ろを、カエル飛びで、ついてゆく。

 慣れると、ぴょんぴょん跳ねる移動法が、意外と、楽だったりもする。


「げこげこ(どこいくの?)」

「げっげっげっ(ユリアさんだよ)」


 どうもマイケルは、ユリアさんのところに向かっている模様。


 ユリアさんは、教会のお姉さんで、優しい人だ。

 聖なる奇跡をいくつも使える凄い人だ。

 歳は、ぼくらより四つ年上で一六歳。


 ユリアさんなら、ひょっとしたら、カエルになったぼくらを、元に戻してくれるかも?


 キサラの機嫌は、当分、直りそうもないし……。

 このままカエルのまま一生――なんてことはないだろうけど。

 カエルもけっこう面白いんだけど。


 なるべく早く元の姿に戻りたい。

 今日の分の薪、まだ割ってないんだよね。


「げこっ(止まれ)」


 もうすぐ教会というところで――マイケルが、茂みの手前で停止した。

 なんだろ。なんで止まるんだろう。

 ユリアさん、そこにいるから、会いに行けばいいのに。


 あとジャンプ数回で、足元まで行けるのに。


「げこっ(いいか? 作戦を話すぞ)」


 なんなの? 作戦って?

 ただ出て行って、訴えるだけじゃ、だめなの?


「げっげっげ(ばかだなー。おまえ。俺たちいまカエルだぞ? 普通に出て行ったって、きゃー、って、逃げられるのがオチだぞ)」


 カエル語は、短いなかに、大量の意味が込められていた。

 カエル語。すごく便利。


「げっげっげ(ユリアさんの後ろから、こっそり近づくんだ。気付かれないように後ろから行けば、背中にあがることもできるだろ?)」

「げっげ(背中にあがったら、どうするの?)」


「げっげげげげ(おまえ。カエルだと、まじでいっぱい話すなー。とにかく背中にのぼらんことには、なんもできないじゃんか)」


 作戦会議が終了した。

 マイケルと、2匹――。ユリアさんの後ろから、こっそりと近づいてゆく。


 ぴょん、と、跳ねると音がするので、のっしのっしと、匍匐前進した。


 ユリアさんの足首が見える。

 ずーっとずーっと上を見ると、ユリアさんが洗濯物を干しているのがわかる。

 うん。こっちには気付いていないっぽい。


「げこっ(いまだ!)」


 マイケルが合図した。


 ぴょん、と、まずマイケルが飛びついた。

 ぼくも遅れずに、飛びついた。


 足首に掴まる。

 ユリアさんの脚を、よじ登ってゆく。

 カエルの手足には、吸盤がついてて……。便利ーっ♪


「え? えっ? えっ? えええっ?」


 ユリアさんは声を上げている。

 体を振って後ろを見ようとしている。後ろにはなにもいないとわかると、こんどは自分の背中を、ぱたぱたと手で叩く。


 マイケルと2匹で、いまちょうど背中を登っているところだった。


 背中を見ないで振り回す、ユリアさんの手が――。

 うわあ! あぶない! 落ちるところだった。

 あ。マイケルが落ちた。


「げこげこっ!(ここは俺にませて! おまえは行けーっ!)」


 マイケルはそんなことを言いながら、地面を、ぴょんぴょん!


「かっ――! カエルっ! カエルうぅぅ! き、きゃあ! きゃあああーっ!」


 ユリアさんは暴れる。走り回る。

 いつもはすごく落ち着いていて、大人っぽいお姉さんだと思っていたんだけど、こういうときには、女の子みたい。


 マイケルがいつも、女の子に嫌がらせして「きゃーきゃー」言わせているんだけど。いつも止めているし。なんでそんなことが楽しいのかわからなかったけど。


 ……なんか。ちょっと、わかった気がする?


 マイケルが足元で飛び跳ねて、ユリアさんの気を引いて、錯乱させつづけてくれているおかげで、残りの行程を登ってゆくのは楽だった。


 もう首筋までやってきた。

 あとは、肩の上にまで行って、ユリアさんに話しかけるだけなんだけど。


「げこげこげーっ!(行けー! そこだ! もぐりこめーっ!)」


 マイケルが叫んでいる。

 潜りこむ? どこへ?


 目の前にあるのは、ユリアさんの首筋だ。

 潜りこめそうなのところといったら……。服の襟ぐりくらいだけど?

 でも、肩の上いくんだよね?


「げっげっげーっ!(そこだー! はいれー! いけー! おまえのラッキースケベ力を見せてみろーっ!!)」


 マイケルが叫んでいる。


 ユリアさんの服の中に、入ってみますか? [はい/いいえ]


==============================

Twitterでの選択結果はこちら!

https://twitter.com/araki_shin/status/683661468391182336

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る