ターン9「猟師のこ」

 いつもの昼すぎ。いつもの村のなか。

 ふだんはあまり行かない道を歩いていたときだった。


 ひゅん!


 なにかが飛んできて、頭をかすめて、すぐ脇の木の幹に、突き刺さった。


 なに? なになにっ?


 びっくりして、心臓をどきどきさせて、立っていると――。


「わー! あぶなーい! だいじょうぶだったー!」


 女の子が、遠くから、ぴゅーと駆けてきた。

 すごく足の速い子だった。


 ふつうの子と違って、革でできた服をきている。手に持っているのは、あれは――弓とかいうやつだ。


「ごめんごめん! 刺さってない!? アタマ! 穴あいてない!?」


 だいじょうぶ。


「みせて!」


 だいじょうぶだよ。


「いいから! みせて!」


 女の子につかまってしまった。しかたがないので、おとなしくした。

 頭をかきわけられて、傷がないか調べられる。


「よかったー。ケガさせちゃったかと思ったー」


 しばらくして、女の子はようやく納得したのか、そう言った。ぺたんと地面に座りこむ。


 髪の短い女の子だ。

 女の子はだいたい髪が長いのに、この子は、みじかい。

 フローラもキサラもユリアさんもマリオンも、リリーだって長いけど、この子は、男の子ぐらいの感じ。

 でも女の子だ。

 今日はマイケルがいないからいいけど。いたら大変だよ。ぺたんと座っているから。ぱんつ見えてるよ。


「あれ? あのさ。……そういえば、キミ……、だれ?」


 あー。やっぱり。そこだよねー。


 女の子に名乗った。最近、この村にきて、薪割りの仕事をもらったことも、ぜんぶ言った。


「へー。そうなんだー」

「あたし。アネット。……キミは?」


 名前を名乗る。村長につけてもらったと、言ってみる。


「へー。カインかー。カッコいい名前だねー」


 女の子――アネットは、そう言った。


 似合わないとか、名前に負けてるとか、言われることは多いけど……。

 カッコいいとか言われたのは、はじめてだったので、ちょっと照れくさかった。


「キミのこと、カッコいいって言ったんじゃないよ。名前がカッコいいって言ったんだよ」


 女の子は、ちょっと慌てたように言った。


「それ。むかしの英雄の名前じゃない? それ。カインっていうの」


 うん。そうみたい。


「あたしもね! いつかそういうふうに、語られる名前になろうと思ってるの! でんせつの狩人――アネット! どう? カッコいい?」


 女の子は弓を構えて、そう言った。


 カッコいいですか? [はい/いいえ]?


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