→はい
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ぽっけから、10Gをだした。
いまの〝ぜんざいさん〟だ。
薪を持ってゆくと、たまに、おだちんをもらえることがある。もちろん、いつもじゃなくて、ごくたまにだけど。
1Gずつのおだちんを貯めて、10Gになっていた。
それを木箱に入れた。
そしてやくそうを取った。
ぽっけにしまった。
やくそうなんて、使いみちなかったけど。
でも……。
かったー! うまれてはじめて、なんか、かったー!
おとなの階段を、ひとつ、のぼった気がした。
きっと、すこし、おとなに見えるようになったんじゃないかな。
誰か見てないか、きょろきょろとまわりを見回していたら……。
木の上から、女の子が降りてこようとしていた。
「よいしょ、よいしょ……」
女の子は、おなじくらいの歳の子にみえた。
一生懸命、降りてくる。でもなんか危なっかしい。ていうか……、どんくさい?
手伝おうかなー、どうしようかなー、と考えているうちには、女の子は木を降りてしまっていた。
地面に立つ。
そして、木の根元に置かれている、ざると木箱を見て――。
「あっ! やくそう! うれてる! ――ああっ! おかね! はいってる!」
すごく喜んで――というよりか、びっくりした感じで、感激している。
たったいま、やくそうをお買い上げとなった自分としては、なんか、恥ずかしいやら、居心地わるいやら。
こんなにすぐ近くにいるのに、なんでか、女の子は、こちらを見つけてないもよう。
とっとと、退散しようとして、歩きだしたら――。
「ああっ! もしかしてもしかして! かってくれたひとですかぁ!」
みつかっちゃった。
しかたなく、「はい」と答えた。首を縦にこくこくと振った。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
女の子は、ぎゅっと手をにぎってきた。両手でしっかり包んでくるように。
その手は、とっても、やわらかかった。
そういえば、女の子と手をつないだことって……。はじめてかな?
女の子はまだ手を放してくれない。顔が近くて。ちょっと困る。
毛糸で編んだふかふかのぼうしをかぶった女の子だ。ちょっと街の子と違う格好だなーと、思ったら……。わかった。ぼうしも、服も、靴も、みんな手作りなんだ。この子のきてるものって。
「ありがとう! ありがとう! ここんとこずっと、やくそうだけなくなってて!」
ん?
「おかね、はいってなくて!」
ん? ん? ん?
「これで、きょうはごはんがたべられます!」
ん? 〝きょうは〟?
……ってことは、ずっと、ごはん食べてないの? おなかすいちゃわない?
「あの! よかったら……、その……、おなまえ……、きかしてください。あと、あと、あと……、もし、いやじゃなかったら……、と、ともだち……」
ん?
「あの……、やっぱり……、いいです」
ぼくはずっと待った。めいわくなんかじゃないよ、と、口では言うことはできないけど。
顔に出して、女の子の手を握って、ずっと待っていた。
女の子は、勇気を出して――言葉の続きを口にした。
「あの……、お、おともだちに……、おともだちになってください!」
目をつぶって、大きな声で言う。
へんじは、もちろん、「はい」だった。
こちらこそ。
女の子の名前は〝ロッカ〟といった。マイケルの言っていた〝薬草摘みの女の子〟だった。
◇
ロッカと別れて道を歩きつつ、ずっと考え事をしていた。
マイケル。ぶたなきゃ。トモダチとして。
もうやらない、ってマイケルが言うまで、ぶつのをやめない。
でもこれだけは信じてる。マイケルは、ぶてばわかる子なんだ。
あと、そうそう……。
やくそう、かっておいて、よかったかもー。きっと使うよね。
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