ターン7「薬草摘みの子」

「カーイーン! あーそーぼー!」


 家の外で、マイケルが叫ぶ。

 こちらの仕事が終わった頃合いをみて、外から呼んでくる。

 前はヤギの乳しぼりから逃げてきて、遊びに誘ってきたわけだけど。最近は、そっちも、ちゃんとやってきているっぽい。


 フローラの調教――じゃなくて、フローラに叱られて、やるようになったらしい。

 もしかしたら〝ごほうび〟とかでやるようになったのかもしんないけど。


 とことこと、出て行った。

 「よ」と、マイケルに手をあげて挨拶。

 このあいだケンカしたのに、マイケルは次の日も誘いに来てくれた。


「今日は、俺の発見したうらわざ! ――それ教えてやるよー! みんなにはナイショだぜー!」


 あれ? 今日はたしか、〝やくそう摘みの子〟のところに連れてってもらえるはずだったんだけど……?

 ちがったのかな?


 なんか教えてくれるらしい。

 ナイショの裏技らしい。

 そっちには、あんまり興味はなかったけど。まあ、トモダチのマイケルが言うのだから、ついていった。


 マイケルはどこに行くのかと思ったら、村のまんなかあたりに行った。

 村のまんなかは噴水のある広場になっている。みんながおしゃべりしたり、子供が遊んだり。

 ここで遊ぶのかなー、と思ったら、マイケルは、広場を素通りしていった。

 広場の向こう側にある、一本の大きな木のところまで歩いてゆく。


「ここだ!」


 木の根元を指差す。


 なにか地面に〝ざる〟が置かれてあって、立て札があって、「やくそう。1つ。10G」と書かれている。

 ざるには、なんか、しなびた草が入っていた。


「ここのやくそうはなー! やすいんだぞ!」


 マイケルは言う。


「どうぐ屋で買えば、もっと高いぞ。20Gはするぞー。ここだと10Gなんだー!」


 ふむふむ。マイケルすごいね。


「だけどおれは! もっとやすく買うやりかたを! おもいついたんだー! みてろよー!」


 マイケルは、口の中に指を突っこんだ。

 そしてツバをいっぱいつけた指を、立て札に書かれた字になすりつけて……。


「10Gです」の「1」のところを……。


 消しちゃったー!


「ほら! みろ! こうすれば! 〝やくそう。1つ。0Gです〟になるだろー! なるだろー! 0Gで買えるちゃうんだぜー! おれ! あったまいーだろー!」


 マイケルを、ぶちますか? [はい/いいえ]


 ・

 ・

 ・

 [はい]


 僕は、ぶった。

 マイケルを、ぶった。

 トモダチとして、ぶった。

 トモダチだから、マイケルをぶった。

 マイケルが泣くまで、ぶつのをやめなかった。


「わかった! わかったから! もうやらないからー! おれがわるかったからー!」


 よし。

 マイケルは泣いた。

 ぶつのをやめた。


 マイケルは全泣きになって、逃げていった。

 追いかけることはしなかった。

 きっとフローラのところに行ったのだろうし。なぐさめてもらえるのだろうし。


 明日。こっちから迎えに行こう。「あーそーぼー!」と、呼ぼう。

 「はい」と「いいえ」以外のことを、うまく言えるか、ちょっと自信ないんだけど。


 「やくそう。1つ。0Gです」の立て札をみる。

 しなびた草……やくそうが、ざるに盛られている。

 いまポッケには、ちょうど10Gがあった。薪を届けにゆくと、たまにお駄賃をもらうことがある。それを貯めたお金だ。

 いまの〝ぜんざいさん〟だ。


 やくそうを、10Gで、買ってみますか? [はい/いいえ]


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