→いいえ
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[いいえ]
薪を割るのはあとでもいいや、と思った。
家を出て、村のなかを探険することにする。
近くには何軒かの家が見える。
夕方なので、どこの家も夕飯のしたくをやっているところだった。
でも煙突から煙りがあがっている家は、意外と、少ない。
「困ったねえ。困ったねえ」
一つの家を覗いてみると、太ったオバさんが、その逞しいぐらいの胴まわりに手をあてて、困った顔で考え事をしていた。
「はぁ……。爺さんが死んじまってから、薪が足りないよ。これじゃご飯の支度ができないよ。困ったねえ」
薪が足りなくて、困っているらしい。
ちょっと考えてから――。
ぴゅーっと、自分の家に駆けもどった。
さっきの切り株のところに戻って、斧を引き抜く。
木を置いて、斧を振るう。
ぱっかん。ぱっかん。割っていった。
抱えられるだけの量を割ったあとで、割ったばかりの薪を全部かかえて、さっきのオバさんの家に、ぴゅーっと駆けてゆく。
「え? なにボウヤ? え? 薪? その薪くれるの? オバちゃんが綺麗だからプレゼント? それは違う?」
オバちゃんに、ぐー、と、薪の束を押しつける。
村長のおじいさんに、理由もなく、よくしてもらった。
だから理由なんかいらない。オバちゃんが綺麗だからとかいう理由では、当然、ない。
「ありがとう。ありがとう。ボウヤ。助かるよー。助かるよー。これでうちの穀潰しどもにご飯を作ってやれるよー。ほんと。メシ食ってひり出すしか能のないダンナとムスコなんだけどねー。ああそうだ。聞いてくれるかい。このまえダンナが――」
オバさんの話は長くなりそうなので、ぴゅーっと逃げ出した。
薪割り場にもどった。
斧を構えると、ばんばん、割っていった。
ぱっかん。ぱっかん。薪を量産した。
もっともっと。もっともっと。
薪を必要としている人は、もっとたくさんいた。
だから、もっともっと割らないと――。
はじめて人から必要とされた気がする。
なにも覚えてないから、よくわんないんだけど。
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