施しの時間
コンビニから連れ出された俺は、無表情で無言なままの彼女に引っ張られるがまま、コンビニから徒歩5分位のファミレスへと連れてこられていた。
「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりになりましたらそちらのボタンでお呼び下さい。」
あまり状況が飲み込めていない俺は、だされた水を飲みながら、ずっと彼女を見ていた。
「…何?ぼーっとしてないで何か頼みなさいよ。それとも、ファミレスは嫌いとか?」
そう言いながら彼女はメニューを差し出してきた。
「いや、ファミレスが嫌いとかじゃないんやけど、今のこの状況がいまいち飲み込めてなくて、もしかして逆ナンってやつ?」
「はぁ?何言ってんの?いい加減にしないと、ほんとに怒るよ!」
(…いや、もうすでに怒ってますやん。)
「さっき聞いた話だったら、とりあえず何も食べてないのかな?って思ったから連れてきてあげたのに、何も食べないんだったら私帰るけど」
「あ、ゴメン。めっちゃ食べるから!この2日間、朝にパンしか食べてなかったから米が食べたい!」
「米?米だけで良いの?」
「えっ!それ罰ゲームですやん。お…おかずも必要っす」
「あっそ。じゃボタン押しちゃうね!」
「えっ!ちょ、まだ決まって…」
こちらの意見など聞く耳も持たず、彼女は迷う事なくテーブルの横にあるボタンを押した。
「で、改めて聞くけど新潟には何をしにきたの?訳の分からない返答をしたら、ご飯はおあずけだからね!」
(メールで知り合った人に会いに来ました。とか言うたら怒られそうやな。)
「えっと、なんか普段の生活が嫌になって、なんとなく遠い所に行きたくて、それで友達と一緒に新潟に来ました」
(改めて考えると、案外これが本音なんかもしれへん。)
「ふーん。で、その友達は何処に居るの?」
「友達はこっちに知り合いが居てて、その人の家に泊めて貰ってるんやけど、自分はこっちに知り合いとか居てないから、路頭に迷ってる感じやねん」
「感じやねん…って、バカなの?」
(うっ…ほんまアホやな。ではなく、バカなの?って言われると、かなりぐさっとくるなぁ。)
「 で、なんで帰るお金すら無いのかなぁ?財布でも落としちゃった?」
「いや、最初から持ってきてないっす!」
この言葉を聞いた時、彼女の目は大きく見開かれ、時間が止まったかのように黙ってこちらを直視していた。
そして、すぐに眉間にシワが寄り、手に持っていたグラスを力強く叩きつけるかの様に置き、真剣な眼差しでこう言い放った。
「ほんっと、バカじゃん!!何考えてんの?」
(こ、怖っ!何考えてるって言われても何も考えて無いから困る。でも、そう言ったらまた怒るやろうし…)
返答に困っていると、タイミング良く?店員さんが注文を取りに来てくれた。
「ご、ご注文をどうぞ。」
可愛らしい店員がにこやかに接客。
というよりは少し気まずそうな雰囲気で、出来る事なら早く立ち去りたいオーラをだしながら注文を聞いてきた。
「あ、と…とりあえず何か注文して良いっすか?…駄目すかね?」
(か、神様降臨や!お会計の時におつりは要らないよって言ってあげよう。)
「ライスの中っ!!とりあえずそれだけでお願いします。」
(……あ、ありがたい。ありがたいねんけどもおぉぉぉ。。)
「ライスの中ですね、畏まりました。他にご注文はございませんでしょうか?」
「今の所ありません!」
「畏まりました。こちらに箸等が御座いますのでご自由にお使い下さい。またご用がありましたら、そちらのボタンでお願いします。」
そう言うと神店員はそそくさと厨房へ立ち去っていった。
(今の所ありません。……という事は!?)
「い、いやぁ〜ライス中だけとか…あっ!面白い事をしたらオカズが増えていくシステム!的な感じっすかね?へへっ」
少し気まずい状況ではあったものの何か喋っていないと間が持たないという感じで訳の分からない事を口走っていた。
すると彼女は箸等が入っているトレイからフォークを取り出しこう言ったのだった。
「右手を机の上に出しなさい。」
「えっと…こ、こう?」
手形でも取るかの様に自分の目の前のテーブルに手を出した。
その次の瞬間!!
カッ!!!!
一瞬の出来事だったので何も反応が出来ず、しばらく硬直状態となってしまった。
ふと我にかえって目の前の状況を整理してみると、親指と人差し指の間に勢いよくフォークを突き立てられている状況で、言葉が出ないまま彼女と目が合った瞬間
「…次、訳分からない事を言ったら刺す。」
(うっ…もう十分、心に何かが刺さってます。)
こうして見知らぬ土地で、見知らぬ人からの拷問…施しが始まるのであった。
それでも俺は俺らしく。 タク庵 @StarGarden
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