終わりの無い時間。

あれから、どれだけの時間が経っただろう。


カフェを出てから、駅周辺をウロウロしていたのだが、これといった収穫も無いまま、ただ体力だけを消耗していくという過酷な時間だった。


ティッシュ配りのバイトをしていた事もあったので、手当たり次第に声を掛けていくというのは慣れていたのだが、いざナンパ!となると経験値が皆無なので、かなり苦戦していた。


(このままやったら、あかん!手法を変えなければ…)


これまでの手法はというと


・お姉さん!何処行くの?

こちらの見た目がスペシャルじゃないと、だいたい素無視になるので駄目なんだと、すぐに気が付いた。


・今、何時ですか?

ちょこちょこ会話…回答がかえってくるだけで先が無い。


・市役所に連れて行って貰えませんか?

丁寧に場所は教えてはくれるのだが、一緒に移動は無理と断られる。


・急に転んでみる。

痛いだけ。

変な人?みたいな視線が辛い。


・Excuse me…

NO!

と言いながら小走りで避けられる。

もしくは、相手からも英語で返されてしまい訳が分からなくなるので…ごめんなさい。


整理してみると、だんだん間違った方向に進んでいるのが良く分かる。


(というか…キャリーバッグ引っ張りながらのナンパとか無理ゲーじゃね?)


…こんなメンタルのままではイケるものもイケなくなるので、休憩しながらまだ確認していない未読メールを読んでみる事にした。


【 母親 】

「あんた、また悪い事してるんちゃうやろな?ええかげんにしとかな、知らんで!」


(落ち着いたらちゃんと事情を説明しよう。)


【学校の友人】

「今日も来やんのか?」


(行きたくても行けません。)


【バイト先の先輩】

「正樹、とんだんか?違うんやったら今すぐ店長に連絡しとけよ!」


(とぶ事になると思うので、連絡は無しの方向で。)


【 祐也 】

「マサキ様ぁ…ネットマネー買ってくれぇ。」


(…俺の知らない所で尽き果てろ!)


【 美鈴 】

「会って10分で帰るとかなくない?しかも電車だから切るって、ほんとマジむかつく!」


「いつまで電車なの?ほんとありえないんだけど!」


「電源切るとか最低!何考えてんの?」


「返信すらないんだね。もういい!バカ!」


「あーもうっ!バカ!寝れないし…。」


「…私の何がいけなかったの?タイプじゃなかった?…ねぇ、何か返してよ」


「おはよう。もう終わり…なのかな?最後に一回だけでもいいから、正樹の声が聞きたいです。」


(やっぱり、えらい事になってんなぁ。とくに美鈴、どうしたもんかな…)


気晴らしどころか、1通を除いて鬱になりそうな内容だったので、一旦放置する事にした。


(とりあえず、今日の寝る場所!これを確保をしなければ、俺の未来は無い!)


こう自分の心に言い聞かせた俺は、疲れきっている体をなんとか動かし、無視され続けるという地獄の場所へ戻っていった。

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