気がつけば1人…彼は暗闇の中で決意する。
…美鈴と別れてから1時間。
行くあてのない俺は新潟駅へと戻ってきていた。
途中で何回か美鈴から電話が鳴っていたが
「電車やから切るわ」
こう言って電源まで切ってしまっている状況である。
(ほんま、何しに来たんやろ。)
大阪に居てる時の俺なら、喜んでホテルへ行ってる状況なのに何故、拒絶し別れてしまったんだろう。
確かに美鈴とはメールや電話でやり取りをしてはいた、だが。
「好きだよ!付き合おう。」
みたいな過程が無かったから拒絶したのだろうか?
いや…なんか違うな。
存在を生理的に受け入れる事が出来なかったのか?
これは無い。
一緒に喋りたい、もっと美鈴と一緒に居たいって気持ちは確かにあった。
だから食事に行こうとも言ったし、会えた時は本当に嬉しかった。
なのに何故…。
(1人で考えてても分からんな。)
とりあえず祐也に電話でもしてみようとスマホの電源を入れる。
着信のお知らせ16件
留守電のお知らせ3件
未読メール10件
(うわっ。俺ってばいつから人気者!?)
とかいう現実逃避は辞めて、とりあえず祐也に電話をしてみる事にした。
「はい、もしもし。」
さっきまで押し潰されて消えてしまいそうだった俺の心が、祐也の声を聞いただけで不思議と落ち着きを取り戻した。
(これが幼馴染の力か。今度、焼肉でもおごってやろう!)
「祐也!お前、今何してる?」
「あぁ?今ちょっと忙しいねん!切ってええか?」
…
「ちょっ!ちょっと待てって」
「なんやねんっ!忙しい言うてるやろ!」
「ごめんて!ちょっとでええから話出来らんか?」
「はぁ?なんやねんお前!こっちは忙しい言う…あっ」
「あ?」
「…死んでもうたやんけっ!どうしてくれんねん!」
「はぁ?」
「ほんま最悪や!で、なんやねん?これでしょーもない内容やったら、お前の給料で回復アイテム買いまくるからな!」
…
「ぷっ…あっはははは!」
(そっか、祐也達はゲームやってんのか!)
俺の悩んで落ち込んでいるという状況が、なんだか馬鹿らしく思えてきた。
「な、なんやお前、ちょっとキモイぞ。」
「はははっ…ふぅ。もういけるわ!」
「は?何がやねん!お前大丈夫か?」
「おう!大丈夫や。ところで祐也達はずっとゲームやってんの?」
「せやなぁ。お前と別れてから彼女ん家でずっとやってる!お前は?」
「そっかそっか。俺?俺もテキトーに遊んでるぞ!」
「ふーん。で、だからなんやねん?はよ言えや!」
「いや、もう用無くなったわ。ありがとう!また電話するわ!」
祐也は祐也でなんとかやっている。
俺は俺でなんとかするべきだろう。
(今ならなんとかなる!)
(今だったらなんとか出来る!)
ちょっと喋っただけで、こんな気持ちになれるとは…。
友達の有り難さを実感した瞬間だった。
(祐也…ゲームしてたから、おごるのは牛丼な。)
落ち着きを取り戻し、冷静に今の状況を整理した結果、かなり酷い状況だという事を再認識した。
(とりあえず疲れた…ネカフェにでも行ってゆっくり計画を立てなければ。)
しばらく夜の新潟をブラブラして、目に付いたネットカフェへ吸い込まれる様に入っていった。
「いらっしゃいませ。オープン席で朝8時までのパックですね!フリーのお客様は前金制ですので、1280円となります。」
なけなしのお金を出し、お会計を済ませる。
「ありがとうございます。では、ごゆっくりおくつろぎ下さいませ。」
(残金5000円弱か…やばいな。)
とりあえず席を確認し、貴重品をカウンターへ預け、シャワーを浴びに行く事にした。
……
さて、これからどうすれば良い?
最悪の場合は、祐也の彼女の家に泊めて貰えるとは思うのだが、それは最終手段だろう。
祐也の様にオンラインゲームで知り合いを作る?
無理だ、時間が無さ過ぎる。
そもそもオンラインゲームなんてやった事がない上に、たまたまこの周辺の人と知り合えるとは思えない。
(うわぁ…詰んだかなぁこれ。)
シャワー室を出て自分の席へと移動してから、何もせずにずっと固まって悩んでいる俺は、周りから見るとかなり変な人に見えるだろう。
(あ、スマホの充電しとかな!)
誰かと連絡を取る手段まで無くなったら本当に終わりだという事に気付き、急いで充電を開始する。
そういえば留守電が入っていた事を思い出し、聞いてみる事にした。
ー1件目の新しいメッセージですー
「…正樹っ!出勤時間過ぎてるけど、どーなってんねんっ!すぐ連絡してこいっ!」
げっ!店長ガチギレしてるやん。
これはどうしようもない、時間が解決するまで放っておこう。
ー2件目の新しいメッセージですー
「あんた、バイト行ってないんか?家の留守電えらい事なってんで」
あ、はい…存じております。
こちらの留守電も絶賛炎上してるので。
(おかんには後でメールでもしとくか。)
ー3件目の新しいメッセージですー
「…ぐすっ…うっ…電話まってるから…」
美鈴か、どうしたもんかな。
正直これが一番きついな…
留守電を聞き終えた俺は、なんとも言い難い気持ちになってしまい、そのままスマホの電源を切る事にした。
(一旦今まで事は全て忘れて、明日の事を考えなければ生きていけないな。)
それから1時間くらい自問自答を繰り返し、なんとか絞り出した答えは。
(よし!ナンパしよう!)
なんとも行き当たりばったりの結論ではあるが、する事が決まると急に睡魔が襲ってきた。
見知らぬ土地を歩きまわって疲れた体で、睡魔に逆らう事など出来る訳もなく、新潟での1日目はこうして幕を閉じた。
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