ベルリンの周りでIV号
第11話 ベルリン食う
ドイツは(世界恐慌の時点からだが)、危機に瀕している。東からはソ連軍、西からはアメリカ中心の連合軍。彼等にしてみれば、ドイツ国民をナチスの手から解放する名目があるのだろう。
連合軍は、大きく広げた口をゆっくりと閉じて、ベルリンを囲い込もうとしている。中央軍集団は壊滅した。共に、ヴァイクセル軍集団がベルリンへの道を阻む。
アハッツの部隊も待ち伏せしていた。
ヴァイクセル軍集団は、敗残兵や、再配置されていなかった部隊をかき集めて作られたものだ。兵力は50万人。どの軍集団にも言える事だが、武器弾薬、その他の装備が大いに不足している。
アハッツは、またもや中隊を従えている。III号突撃砲4両、IV号駆逐戦車2両。アハッツはIV号駆逐戦車に乗り込んでいる。
「IV号戦車……ふっ」
IV号戦車ではなく、駆逐戦車に乗っているのが悲しいらしい。が、IV号駆逐戦車は、ヒトラーに言わせれば最強の戦車らしい。
戦車の他は、全て歩兵だ。
林に隠れ、待ち伏せしている。辺りには霧が出ている。
「ふふっ……これじゃ見えないな」
「待ち伏せの意味が薄れますねー」
若い軍曹が言う。
『不肖、この私が偵察に向かいましょうか?』
「いや、奴等は大所帯だから音でわかる」
それに、アハッツは眼がいい。
「ふふふっ……こんな時に可愛いもんだ」
犬が一匹、東から駆けてくる。ジャーマンシェパードだ。気づいたのはアハッツのみで、歩兵達は寸前で気づいた。
「おっ、犬だ」
「爆弾を抱いてるかもしれない……構え!」
士官は眼を細めて確認する。
「下ろせ、撃つな」
「ワン公を撃ったりしませんぜ……」
シェパードは塹壕に飛び込む。かなり人懐っこい。
ドックタグには〈イヴ〉と記されている。
「こいつオスなんだけどな」
「こらっ、警戒を怠るな」
士官も顔がほころんでいる。
「前方3000m、敵」
アハッツは気付いた。
「見えるか?」
「影が辛うじて見えます」
霧によって視界は限られた。
『隊長、こちらからだと視認できません』
「ふっ……わかった」
少し不満そうなアハッツ。
配置の都合上、視界がうまく取れていない車両があった。それに、視力というのは個人差があるものだ。
「風が出てきた、霧が晴れるぞ」
ソ連軍は野原を進んでいる。その為、その姿を隠していたのは霧と、大地の起伏である。アハッツの方は森の木々に紛れ込んでいる。
「ふふっ……だいたい30両か、多いな」
徐々に、確実に視界が晴れる。
大戦中期以降に開発されたドイツ軍戦車の多くが、攻撃戦には不向きであった。ポーランドからフランス、ソ連に対してのバルバロッサなどの作戦は機甲師団の速度を生かしたものであった。が、ティーガーやエレファントなどの重戦車は装甲、備砲は優れているがその分速度が出せなかった。これらの穴を埋めるべく開発されたパンサーも、場合によってはティーガーより低速であった。
そして、上記した車両と無砲塔車両は、待ち伏せなどの防戦において真価を発揮した。
ちなみに、IV号戦車は速度は重戦車より出る上に、備砲も大抵の敵戦車を撃破する事ができる。
「3両撃破」
『北東の空より、航空機接近』
「ふっ……見えんぞ」
『エンジン音が聴こえるであります』
ソビエト軍の戦車達は、起伏に上下しながら進んでくる。起伏を一つ越える度に、撃破されていった。
「止まるな、進み続けろ」
『は……了解!』
既に9両が撃破されているが、ドイツ軍の姿は見えない。
「散発的な砲撃……数は少ないな」
彼等は焦る必要は無かった。後方からも数千、数万の軍が進んできているからだ。
ただ、モタモタしているのは、この士官の性分に合わないらしい。
「稜線射撃用意」
『
凹地に全車が来た。
そこから勘を頼りに撃ち込む。砲塔だけを稜線から出して。
頭上を砲弾が飛んで行く。
「あそこの林からか……?」
霧は晴れていた。そして、彼我の距離が1000mをきった。それでも、ドイツ軍は見えない。迷彩や、偽装で見事に隠れている。
「
『あいよ!』
152mmという、戦車砲としては段違いの口径を持つSU-152。通称ズヴェロボーイ。こちらも無砲塔車である。扱いとしては駆逐戦車、もしくは自走砲になる。これほどの口径になると、敵の装甲厚に関わらず装甲をかち割ることができた。大戦後期に生産されたドイツ戦車の多くは、装甲の質が大戦前期のそれより劣っていた。
「林の敵に撃ち込め。大体でいい」
今回は林ごと、敵を吹き飛ばす為に使うらしい。
いくつもの砲声に紛れて、明らかに大きな砲声が轟く。IV号戦車が装備する7.5cm砲の砲声より大きく、遅い弾速。
林の一片が、炸裂した152口径の榴弾で吹き飛ばされる。
これほどの破壊力ならば、ドイツ戦車数両、蹴散らしてくれるだろう。
「おお、流石だ」
この士官は、これだけで勝利を確信した。
二射目にしてドイツ軍の砲撃が少なくなった気がした。そして三射目が終わり、林の正面左半分が消し飛んだところで指示を出した。
「前進! 13から20号車は援護に残れ!」
『
「高度6000m、視界良好」
双発のHe-111が4機、ダイヤモンド編隊を組んで飛行している。
「編隊長、下の味方より発光信号──爆撃ニヨル援護ヲ求ム──」
「ちょうど思ってたところだったんだ」
編隊長は地図を見つめると、指示を出した。
「方位2-1-0より侵入、爆撃する」
4機の爆撃機は旋回した。
アハッツ達が音で彼らを確認してから数十分経っている。
「3000mまで降下、確実に当てる」
数分が経過した。
ソビエト戦車隊は移動を開始して、林に向かう。爆撃から逃れるためか、ドイツ軍を追い詰めるためか。それは分からなかった。
「進路を少しずらせ」
どんな運動をするにしても、この編隊は一糸乱れずに行う。
「……よし、弾倉開放」
「投下準備完了」
「3……2……1……投下!」
爆撃手が投下レバーを下ろした。
爆弾は、初めはゆらゆらと落ちていった。
後続機も投下していく。
航空機による地上攻撃の威力は絶大であった。戦車の上面の装甲は薄い。
数十秒後、ソビエト戦車隊に命中した。
結局、またもや、アハッツは勝利した。
いい加減、飽き飽きして来る。と言っても、アハッツも無傷ではなかった。
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