第6話 IS-2 その1
「はぁっ! 装填! ……撃て!」
「はぁっ! 」
122mm口径の砲弾が、IV号戦車に飛翔していく。砲弾はIV号戦車の、右側面の
「んなぁ⁉︎ ……奴等、許さんぞ! ふははは!」
後少しで破片が当たっていたところを、全く気にせず、怒りに変換するアハッツ。
「どうしました?」
「装填!…… 撃て!」
砲煙が風に流され、目標が見える。移動しながらの射撃の為、当たっていない。
「装填」
「…………か、完了!」
「遅い! ふっ! 撃て《フォイヤ》!」
『2号車、履帯損傷の為、行動不能!』
IV号戦車が去り際に放った砲弾が、履帯に当たった為行動不能になった。
「ドイツ野郎……中戦車は村へ駆け込め、私達はこいつらを止める」
『
「2号車、援護してくれ」
2号車の砲塔がゆっくりと回り、IV号戦車に向けられる。そこに隊長車と4号車も加わって、計3台でIV号を追撃した。
IV号戦車がかなりの速さで動いた為、当たりはしなかった。
「ドイツ野郎……あ、急がねば! 村へ急げ!」
ソ連戦車隊の隊長は気づいた。先に村へ向かわせた、中戦車隊が危険な事に
「ヒャッハーーー! ソ
待ち伏せしていた砲兵隊が、ソ連戦車を駆逐していた。砲撃が行われる度、砲塔が飛び、弾薬がはじけ、敵兵は倒れた。
IV号戦車隊は能動的に、歩兵を支援していた。歩兵がソ連戦車と出会うと、直行し、歩兵の
「少尉! やりましたよ!」
『いちいち報告するな、後で聞くから』
「了解! あっ、またやりました!」
砲兵は皆こうなのだろうか、と思うアハッツ。
戦車が中心とはいえ、ソ連軍の部隊は歩兵も多かった。無論、機関銃で薙ぎ倒すのだが、一向に撤退する気配がない。
ドイツ軍の機関銃は「布を切り裂く音」、がしたと言う。それほど、連射速度が高かった。 それですらソ連兵を止めることが出来ない。
「中尉がこちらに向かっているそうです」
「アハッツっ中尉がっ⁉︎ おぅっしゃぁ! ……なんだよっ、あれっ!」
返事のおかしな車長が見たものは、尋常ではない数の戦車だった。小さな村に一体、どれほどの部隊が来ているのだろうか。
「こ、こんなっ……他の戦車、戻って来いっ」
『助けてくれ! 敵戦車が--それもたんまりと迫ってきてる! 』
村の東側で戦っていた車輌からも連絡があった。
「東と東北東からもっ、敵がっ⁉︎……こうなったらっ、中尉ーっ! 助けて下さいっ‼︎」
そんな、部下達の悲痛な叫びを聴いたアハッツ。流石に全滅したらまずいと思い、援護に来た。敵部隊の背後から徐々に近づく。東側の敵だ。
「おい、新米装填手」
「はい?」
「手榴弾をハッチに投げこめ」
「は? と言いますと……?」
「言葉の通りだよ」
「りょ、了解」
少し焦る、新米装填手。
「新米通信士、お前は歩兵を薙げ」
「了解」
50メートルまで近づいた。ソ連兵達は、目の前の事に夢中で気づかない。戦車長達はハッチから身体をだしている。
「ブロン、なるべく近づけ」
「はい」
ブロンの絶妙な運転で、数メートル程まで近づいた。ソ連戦車には歩兵が、ぎっしりと乗り込んでいる。その歩兵達が、迫り来るドイツ戦車に気づいた。
「投げろ!」
信管を作動させ、丁度良く爆発させる為に数秒待つ。そして、投げる。
「1……2……3……よっと!」
ソ連戦車の真上で爆発し、乗っていた歩兵達が血肉を撒き散らしながら転がり落ちる。だが、戦車は止まらない。砲塔が回り、IV号戦車を捉える。IV号戦車も、T-34を捉える。
「ふふっ、
結果、砲撃で撃破する。
「新米! 投げ続けろ!」
「名前で呼んで下さいっ!」
今度も手榴弾は敵戦車の真上で爆発した。今度は敵戦車の車長も、上半身をもぎ取られた。
これを数回繰り返し、敵部隊は混乱を起こした。まぁ、殆どの手榴弾は効果をなさなかったが……。その隙に部隊を突き抜けて、村に駆け込んだ。
納屋の陰に隠れ、なるべく車体を晒さずに戦う。ひとまず、ここの歩兵達の支援を行っていた。
すると、兵士達が駆けてきた。二人一組で筒状の物を持っている。
「弾薬です……はぁ、はぁ、はぁ」
「おう、すまんな……ふっ! ブロン動かせ」
更に奥に引っ込み、弾薬の補充を行った。その作業中、納屋が勢いよく吹き飛んだ。気づくと、周りの建物も爆発している。
「くそっ、もう来やがったか……」
その、視力4.0の眼には映っていた。IS-2が。
「ドイツ野郎ーーーーーーっ!」
ソ連戦車長の叫びがこだまする。殆ど砲声で聞き取れないが。
「
これこそまさに、運命の再会。両者共に、互いの声は届いていないが。
「中尉! 先に東北東の敵をお願いします!」
「IV号戦車を傷つけたから、絶対に生きては返さない……ふふふっ」
復讐が始まった。
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