第195話 いつものルーティン
翌朝は二人ともいつも通りのルーティンで動いてた。神崎さんがご飯作ってて、あたしが洗濯物干してて。いつものように「山田さん、ご飯できましたよ」って呼ばれて、その前から家中にお味噌汁のいい香りが充満してて。
食卓に着いて「いただきます」って手を合わせて、ふと思った。
「ねえ、このお家でこのルーティンって今日が最後だね」
「そうですね」
「楽しかったね」
「ええ、これからはまた東京に戻る準備が大変ですよ。来る時は少々の荷物であとは買えば良かっただけですが、帰りはそういう訳に行きませんからね。キレイさっぱり撤去しないといけません」
「何したらいいのかわかんないよ」
「ハンバーグ作ったでしょう? やる仕事を洗い出して、優先順位をつけるんですよ。その中で時間指定のある物は、その時刻に最優先でキープするんです。料理と仕事は同じです」
って言いながら、鮭の塩焼きをつついてる。なんだかなー、神崎さんの食事の仕方はほんと上品だよなー。あ、あたしに品が無いだけか。
「山田さんが美味しそうにご飯を食べる姿をまた見ることができるんですね」
「暫く一緒に朝ご飯なんて食べられないけどね」
「結婚すれば毎日一緒に朝ご飯ですよ」
げっ! 結婚! あたし、この人と結婚するんだ! 結婚……うわー……。
思わず顔を両手で覆っちゃったよ。
「どうなさったんですか?」
「恥ずかしい」
「は?」
「その言葉」
「どの?」
「け……けっ……」
「結婚?」
「きゃあああ~」
あかん! 顔から火が出そう! ムリ、ダメ、その言葉NG!
「血管」
「きゃあああ~」
「欠損」
「いやあああ~」
「結婚」
「いやーーー! やめてーーー!」
「してくださらないんですか?」
「する。します。して下さい」
「いえ、それは昨夜、僕の方からお願いしてますが」
「違う、結婚はする。きゃー、何言わすの! そうじゃなくて、その『結婚』て言葉がいやーーー!」
だって、『結婚』だよー?
「は? するんですよね?」
「しますします! やめてー!」
「どっちなんです?」
「しますけど! だけど、考えてもみてよ、その、何ともないの? 恥ずかしくなんない? 『結婚』だよ? きゃー! もうダメ、あたし死ぬ」
「大丈夫ですか?」
「だいじょーばないよ!」
あたしが恥ずかしすぎて顔を覆ったままでいたら、神崎さんが席を立ったような気配がしたんだよ。指の隙間から恐る恐る覗いてみたけど、正面に神崎さんが座ってない。
と思った瞬間、後ろから手首を掴まれた。そのまま『いないいないばあ二人羽織バージョン』みたいに、顔の前から手を撤去されちゃった。
「ちゃんと顔を見せて下さい。僕のお楽しみの時間なんですから」
「ひょええええ。耳元で囁かないでよ~」
「フフフ……弱みは握らせていただきました。調教のし甲斐があります」
「げ……そーゆー趣味あるんだ……」
「まさか。冗談ですよ。お望みでしたら考えますが」
「結構です、あたしノーマルだから!」
神崎さんが笑いながら席に戻ってく。もう、ただ椅子を引いてるだけなのに、そんな姿も素敵過ぎて癇に障る!
「あー。そっか。そうなったら毎日神崎さん見ながら生活するのか……」
「今までと同じじゃないですか」
「だってこの先ずっと一生だよ?」
「問題ありますか?」
「あるよー。大問題だよ。朝起きたら神崎さんが家に居るんだよ? こんな素敵な人が家に居たら、ずっと見とれちゃってるじゃん。料理しててもカッコいいし、お掃除してても素敵だし、クルマ乗ってても仕事してても、何やってても見とれちゃうじゃん。ヤバいよ、あたし廃人になっちゃうよ」
あたし割と本気で苦情を言ってたんだけどさ、食事を終えた神崎さん、箸を揃えながら苦笑いしたんだよ。
「ダメですよ。朝からそんな可愛い事を言うと、襲っちゃいますよ」
「もー、本気で言ってんのにぃ!」
「その拗ねた顔が可愛いんですよ」
「むううううう~」
そしたらさ。肩を竦めて「本当に罪作りな人だ」とか言ってまた席を立ったんだ。
「さ、今日は忙しいんですから、ちゃんと食べておいてくださいね。僕はもう終わりましたよ。コーヒー淹れて来ます」
そんな事言いながら、横を通り過ぎる時にあたしの頭ポンポンして行きおった! むううううう~!
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