第194話 ヤキモチ
あれからみんなに祝福されて、何だか夢見心地のまま帰って来ちゃって、それで今は神崎さんと二人でお家で二次会やってるの。勿論神崎さんの美味しい手料理を肴にして。って言ってもさ、冷蔵庫の中身を片付けなきゃならないからそれを兼ねてって感じなんだけど。
あたしの指にはピンクダイヤモンド。指の細い人だったら指が負けてるよ。なんだか凄いゴージャスなんだもん。エヘヘ……7ケタ。エヘヘへへ。失くしたら大変だからしまっておきたいけど、今はまだ眺めていたい。
「猫に小判、豚に真珠、カバにダイヤ……」
なんとなくボソッと言っただけなんだけどさ、神崎さんしっかり聞いてたらしい。
「僕の大切な人をカバなどと言ったら許しませんよ」
「そーゆー事を面と向かって言うか。照れるじゃん」
「僕はいつでも面と向かって言っていたつもりですが。山田さんが素直に受け取って下さらなかっただけですよ」
「だーってぇ」
「だって、何です?」
神崎さんがちょっと眉をあげて首を傾げてる。こんな普通の仕草が憎たらしいほどカッコ良くて癇に障る!
「だって、てっきり神崎さん、城代主任狙いだと思ってたんだもん」
「まさか! 10歳も年上ですよ。彼女には浅井さんくらいの『大人の余裕』のある人でないと釣り合いが取れません」
「神崎さんだって十分大人の余裕あると思うけど」
「余裕があったら浅井さんに腕時計を取り上げられたりしませんよ」
なんだあの時あたしが見てたの知ってたんだ。
「僕はあなたが岩田君の事を好きなのだと思っていました」
「は? それこそ9歳も違うじゃん」
「それもそうですね」
思考回路がメチャクチャだよ、この人。
「いや、ガンタは好きだよ。だけど友達としてって言うか……弟みたいなもんかな。ガンタ、可愛くてさ。凄くいい子だし」
「ええ、僕も岩田君の事を弟のように思ってます。ですが、山田さんを彼に渡す気はありませんでしたよ。あなたが岩田君の事が好きだったら奪い取ってやろうと思ってましたから」
「やめてよ、照れるじゃん」
「言った筈ですよ。手は抜きません、と」
うん、確かに聞いたよ。その時は意味が判らなかったけど。
「遠いな……」
「は?」
「あなたとの距離です」
「へ?」
え? 神崎さん、椅子持ってこっちに回って来たよ。こんな目の前で飲んでるのに、こっち来んのか?
「これなら近い」
さも当たり前のように隣に並んで飲み始めたよ。
「十分近かったじゃん」
「向かい合っていては肩も抱けません」
「はぁ?」
「いけませんか? 僕の奥さんになって下さるんでしょう?」
そーゆー事を聞くかなぁ! てかそーゆー事言ってさり気に、いや、思いっ切り堂々と宣言して肩に手ぇ回すかなぁ!
「山田さんの肩、柔らかくて気持ちいいですね」
「それ、ヨッちゃんにも言われた」
「横尾君?」
え? 神崎さんの目つき変わった。
「……に、肩を抱かれたわけですね?」
「うん、そーだけど」
「横尾君……僕の知らない所で……」
神崎さんが反対の方を向いて、眼鏡のブリッジを人差し指と中指で押さえたままブツブツ言ってる。何これ、まさかヤキモチ? ちょっといじめてみようか。
「ぎゅーって」
「ぎゅー、ですかっ?!」
急にこっち向いたよ。やだ、可笑しい、ほんとにヤキモチ妬いてる。嘘みたい。このクールでスマートな神崎さんが、ヤキモチ! 笑う~~~!
「何をニヤニヤしてらっしゃるんです? 僕以外の男性に肩を抱かれるのがそんなに嬉しいんですか?」
「ううん。神崎さんにヤキモチ妬かれるのが嬉しい」
「フン、ヤキモチなどこれっぽっちも……目一杯妬いてます」
「神崎さんて、ツンデレなの?」
「冗談は止して下さい。僕はデレデレです。最初の飲み会で城代主任と話したのを覚えてらっしゃいませんか? スタンダールの話をした時のこと」
「なんとかの恋?」
「ええ、僕は情熱家なんです」
ああ、確かにそうだった。情熱の恋とか言ってさ、似合わねーって思ったんだもん。この人って普段とのギャップ大きすぎる!
「あの……東京に戻ったら……」
「ネズミーランドでしょ?」
「ええ、そうなんですが、その……」
神崎さんらしくも無く、何だかモゾモゾしてる。
「どうしたの?」
「山田さんのご実家に……」
気が早ええええええ!
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