第187話 けんきんぐ
今日は何だか会社が慌ただしい雰囲気に包まれてんだよ。あたしのプログラムは昨日の終業時刻までに仕上げて恵美に回してあるし、もう殆ど仕事終わっちゃったんで、今のうちに少しでもナマの建機に触れておきたいとは思ったんだけど、なんだかそれどころじゃない。
朝からまた神崎さんが画面に向かって本部長とワイワイやってるんだ。しかも今日は思いがけない話題なんだよ。なんでその話をここでする? っていうような……。
「何故そんな事になったんです? 『けんきんぐ』はまだ売り出してから1年も経ってないんですよ?」
「だからさぁ、神崎君。『けんきんぐ』が売れなかったんじゃなくてね、発売元が倒産しちゃったんだよ。それで他の会社に買収されちゃったって事でね」
「どちらにですか」
「グローバル・アース社だよ」
「あれはネットサービス業じゃないですか。まさかオンラインゲームに?」
「そういう事だよ。G-gameの今年のシミュレーション系の筆頭に据える気らしいね。今までに無かった機能を追加して、協力型にするらしい」
「はぁ……グローバル・アースのエンジニアが機能追加を入れるんですか?」
「いや、ライセンス自体は渡してないから、開発はこっちに業務委託になる」
「ねえ、なんで神崎さんが『けんきんぐ』の話なんかしてんの?」
「それがわかったら、だーれも苦労せえへんし~」
手近に居た萌乃をとっ捕まえて聞いてみるけど、どうやらだーれも知らないらしい。『けんきんぐ』の開発に参加したんだろうか。
「では、また僕のところに回って来ると?」
「まあ、そういう事になるね」
「本社じゃ無理ですね。感覚が掴めない」
「そう言うような気はしてたんだが……」
「あのゲームはレベルが上がると配管工事やビルの建設もできるようになってるんですよ、それを協力型にするとなると、監修依頼も出さなければならなくなりますよ」
「まあ、そうだね。だが建設屋さんは神崎君の方から許可を貰えば君の工数に上乗せする形で……」
「そっちも僕なわけですね、前回同様」
「まあそうだね、君が一人で作ってるようなもんだが」
何の話してんのよ、全然見えないよ。だけどみんな同じような顔してるから、みんな話が見えないんだろうね。
「僕はドップリ見えすぎてますからね、素人の意見も欲しい所です」
「この前『けんきんぐ』でプログラマが改善案を出して来たと言ってただろう、あれはそこの人?」
「いえ、本社の山田さんですよ」
「あ~、山田さんが『けんきんぐ』やってたのか。他にそっちで『けんきんぐ』やった事のある素人は?」
「火曜日に例の事故でけがをした岩田君です」
「わかった。おやっさんと相談してみよう」
本部長がおやっさんをおやっさんって呼んでるよ! おやっさん恐るべし!
ふぅっ……と大きな溜息をついた神崎さんに、みんなを代表するかのように浅井さんが華麗なターンの後にポーズを決めて質問したんだよ。
「Hey 、 神崎君、You は何故に本部長と『けんきんぐ』について Hot な話を展開していたんだい?」
「僕が開発したからですよ」
なんですとー!
「建設屋さん、ってのは何の話だい?」
「ビルの建設などの監修をしたのも僕だからです」
浅井さんが肩を竦めてもうひと押し。
「Why? 何故に神崎君が建設屋さんの仕事まで?」
「監修を依頼されたのが僕の実家の神崎建設だからですよ」
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