第169話 ビミョーだよ

 いえね、確かにね、嫌な予感はしてたんだよ。雨降りだしさ。テラス席は開けて無いだろうしさ、お花畑のとこは雨ザーザーだしさ。

 で、予想は見事に的中してさ。あろうことかガンタと沙紀が仲良くお昼ご飯持って、開発フロアに来たんだよ。ガンタだけならまだしも、沙紀連れてくんのかー。

 まあそうなれば当然と言えば当然だけど、ガンタとあたしと沙紀と恵美と萌乃の5人でランチタイムを過ごすことになる訳で。しかも雨降りだから、城代主任と神崎さんもそこに乱入して来る訳で。

 結局FB80チームのうち7人がここに集まっちゃった訳よ。しかも嫌な構図だ。神崎さんと城代主任は相変わらず作業机の端で向かい合ってるし、その城代主任の隣にあたしが座ってガンタと向かい合ってる。そのまた隣に沙紀と萌乃、お誕生日席に恵美がドーンと偉そうに座ってる。

 当然だけど三人娘は工場のコンビニでいろいろ買い込んでるし、あたしと神崎さんは同じ内容のお弁当、城代主任は相変わらずの可愛らしいお弁当でガンタは自分で作った焼肉弁当なんだな。


 兄弟の契り(?)を結んだのか結んでないのか、ミョーに仲良くなった神崎さんとガンタが、お弁当を見せ合ってる。それを斜め前から城代主任が覗き込んでたりして。


「あら、今日は焼肉弁当? ちょっとレベルアップしたのね」

「はい。つっても肉と玉葱と人参炒めて、焼き肉のたれをまぶしただけなんすけど」

「グリーンピースも入れたんですね。色合いが綺麗ですよ」

「神崎さんに教えて貰ってすぐに冷凍野菜のグリーンピース買ったんすよ。ミックスベジタブルもソッコーで」

「岩田君には教え甲斐があります。すぐに実践しますからね。しかもすぐに効果を目に見える形で出してくる。見習わなければなりません」

「やめてくださいよ、神崎さんに言われると照れるっすよー」

「ガンちゃん、素直に喜びなさいよ。神崎君て褒める時も叱る時もストレートなんだから。神崎君はちょっとオブラートに包むって事を覚えた方がいいわよね」

「すみません、根が正直なもので」


 絶対そう思ってないだろ。顔が笑ってるぞ。

 とそこに沙紀が悪魔の一言。


「なー、花ちゃんめっちゃ可愛くなったと思わへん?」

「メッチャ可愛くなったっす。なんか俺もーマジでヤバいっす。仕事になんないっすよ、マジで」

「ガンタには聞いてないし!」

「え? 俺じゃないんすか? 俺に聞いてくださいよー」

「神崎さんに聞いてんの!」


 神崎さん、自分の事とは思ってなかったんだろうね。鯖の竜田揚げ持ったままキョトンとしてるよ。


「は? まあ、そうですね。とても可愛らしくなりました。僕は元のクリクリ天然パーマも可愛いと思いますがね。ストレートはさらに可愛いですね」

「だーかーらー神崎君、そう言うのも少しオブラートに包むのよ」

「あ、そうでしたか。これは失礼しました」


 ……何がしたいんだ、あんたら。


「モエにも可愛いって言って下さいよー」

「園部さんもとても可愛いですよ。ピンクハウスがお気に入りだそうですね。山田さんから伺いましたが想像に難くない。非常に似合いそうですね」

「え~、ほんま? あ~ん、もうモエ今日は天国~」

「なんや神崎さん、花ちゃんのヘアスタイル、そんなに感動的やあらへんかったん?」


 だから沙紀! 余計なところでツッコむな!


「いえ。僕はもう既に一昨日の晩に見ましたし、昨日も何度も見ていますから慣れてしまっただけで、最初に見た時は感動的でしたよ。デートしたくなりました」


 だから神崎! あの時の感想そのまんま言うな! 城代主任居るでしょっ!


「で、昨日デートしはったん?」

「いえ、僕が熱を出していましたので、残念ながらそれはできませんでした」

「花ちゃん見て熱出したん?」

「いや~ん、モエも熱出されたい~!」

「ううん、その前から熱出してたんだよね。あたしが萌乃たちと出かける前からね」


 ちょっと皮肉を込めて言ってやった。その間にあんたハリーポッターとかなんとかってジュエリー屋さんに行ってたんだもんね。そんで7ケタのエンゲージリングを選んでたんだもんね。

 そしたらさ、城代主任がすぐに反応したんだ。


「神崎君、大丈夫? 熱は下がったの?」

「ええ、もう下がりました。山田さんが何度か見に来てくれて。冷却用ジェルシートを持ってきてくれたり、御御御付けも作ってくださったんですよ。本当に助かりました」


 冷えピタって、品名は冷却用ジェルシートって言うのか。


「あら花ちゃん、神崎君に『絶望的に料理ができない』って言われてたのに。神崎君の為なら作れちゃうのね」

「神崎さんの為って訳じゃないです。自分も食べるから」


 ってなんでそんな意地悪な事言うんだろ、あたし。


「はいはい、それで? 美味しかったの?」

「ええ、出汁の取り方から仕込みましたから」

「あら~いいわね。花ちゃん、羨ましい」


 なんだか城代主任の言葉がビミョーだよ。そのまんまにも取れるし、ヤキモチにも取れるし、余裕があるようにも取れる。

 不穏な空気を察したのか、三人娘も途中から黙っちゃった。


 そして更にややこしいことになる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る