第160話 チケットの女王

 エステの後は4人でランチ。あたしと萌乃がダイエットしてるもんだから、ヘルシーなランチが食べられるとこねって、萌乃おススメのカレー屋さんに行ったんだよ。

 確かに見た目から違うんだよ、4人で同じ物注文しちゃったんだけどさ、『ゴロゴロ野菜カレー』ってヤツ頼んだらさ、ご飯がちょっとで、素揚げの物や蒸した大きめの野菜がゴロゴロ入ってる。

 ペコロス、芽キャベツ、ニンジン、プチトマト、ジャガイモ、カボチャ、エリンギ、牛蒡、ブロッコリ、オクラ、ナス、にんにく、ピーマン、生のミズナや赤カブなんかも入って、そこにカレーがかかってるんだ。トッピングにアーモンドとレーズンがかかってて、美味しいんだよこれが。これ、絶対作ろう!

 あれ? あたしが料理を作ろうとか思ってる。これって凄くない? 神崎効果だよね。


「何これメッチャ美味しい」

「でしょー? モエのお気に入りやねん」

「ねー、それはいいからさ、神崎さんやん。あたし思うねんけどな、神崎さんて紳士的過ぎちゃって、あんまり大胆な行動に出られへん人やと思うんよ」


 そーでもねーぞ。ペンションの部屋でもお花畑でも抱き締められたし、昨夜はおやすみのキスだってされたぞ。


「だからな、花ちゃんはそーゆー雰囲気を作ってやる必要がある思うねん」

「うちもそう思う! そう言うタイミング作ってやったら、神崎さんかて花ちゃんにアタックできるんちゃうかな? 本社戻ったら、もう一緒のとこで仕事でけへんねんやろ?」

「うん、まあ。あ、このオクラ美味しい」


 沙紀がスプーンにペコロス乗っけたまま喋ってる。早く食べなよ、落とすよ。そこに萌乃がまた例の甘ったるい声を出すんだな、こーゆーのをアニメ声っていうんだろうな。『アニメ声』と『天城越え』って似てるな、似てねーか、似てねーよ。


「ね、ね、ね、花ちゃん、このGWで随分スマートになったやん? この際ドドーンってイメチェンするの、どう?」

「あ、それええやん! 賛成!」

「ウチも賛成、イメチェンしよ。ヘアスタイルとか変えたら一発やん」

「ショートにすんの?」

「ちゃうわ~、恵美、発想が貧困やし。ストパどーよ?」

「ス・ト・パ~?」


 って何ですかね、ストレートパーマの事じゃないでしょーね。


「花ちゃん、今日髪がストレートになって帰ったら、夕飯の時、神崎さんビックリすんで~! それいこ!」

「沙紀、どエライ事考えるなぁ」

「ほんまや~」

「いーからカレー食べなよ~」

「食べとるがな。なーなー、さっきから気になっててんけど、そのイヤリング、どこでうたん?」


 鋭いぞ、恵美。着眼点が違うぞ。


「そやねん、ウチも気になっとってん。めっちゃ可愛いし」

「これ……作ったから」

「え? 花ちゃんが?」

「いや、その、神崎さんが」

「はあああああ? 神崎さんがぁ?」


 3人で叫ばなくたっていいでしょーが。


「うん……その……最初の週末に、一緒に天橋立に遊びに行って、その時に拾った貝殻で」

「いや~ん、素敵~、モエもそんなのしたい~」

「花ちゃんのを神崎さんが作ったちゅーこと?」

「うん」

「天橋立って、ガンタを断ってかぁ?」

「あ、そーやん、神崎さんがなんか『山田さんに手伝っていただきます』とか言うとった日ぃやん。遊び行っとったんかいな」

「いや、あれは神崎さんの仕事が早々片付いちゃったから、そんなら近場でどっか行こうかって」


 ってなんであたししどろもどろなのよ? てか次々喋るな、誰が言ってんのか判らんし!


「あれはあたしだって想定外だったんだからぁ」

「って事は、既にその頃から神崎さんは花ちゃんを狙ってたんやんかー」

「そうやん、それでガンタを正面から突っぱねたんやん」

「ちょっとみんな、飛躍し過ぎだってば」

「いんや、あれは確信犯やで」

「花ちゃん、思い出してみ? なんや意味深な事言われたりしたことあらへん? ドキッとするよーな行動とかさ」

「なー、絶対ある筈やわ」


 あり過ぎだよ。あの人のジョークはシャレにならん。結婚式したり、新婚旅行ごっこしたり……。


「記憶にあるやろ?」

「うん、まあ、いろいろ」

「やっぱり! これで神崎さんの気持ちは確実やな! あとは花ちゃんや。花ちゃんも神崎さんの事好きなんやから、神崎さんにコクりやすい環境作ったったらええねん」

「何それ~」

「とにかく決まりなっ! ご飯終わったらストパ掛けに行くで」

「よっしゃ!」

「あたし、いつも行ってるとこのストパ無料チケット持ってるんやけど」

「恵美~~~! 流石や~! 無料チケットの女王」


 どうしよう、この人たち断れない感じなんですけど。

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