第159話 ……好き……かな
あたしたちは4人でお喋りできるように、フェイシャルブースとボディブースの境目のところに集めて貰ったんだよ。お互いはカーテンで仕切られてるんだけど、声が良く聞こえるからお喋りできちゃうんだよ。
タクマさん面白い人でさ、御主人とラブラブらしくて、もういろんなこと教えてくれんの。恵美もいろいろ相談に乗って貰ったりしてたみたいでさ、しっかり者のお姉さんって感じなのよ。美人だし、スタイル抜群だし、巨乳だし、あ、巨乳関係無いか。あたしの方が巨乳だ。てか全部が巨大だ。地味に凹む。
「さーて、ここやったらうちの会社の野郎共に聞かれる事もあらへんし、ゆっくり話しましょうかね、花ちゃん」
「え、何よ?」
「神崎さんの事に決まっとるやん。その為に呼んだんやし」
「えええ? 何それー! 嵌められた?」
「そーそー、嵌めた嵌めた!」
3人でメッチャ楽しそうに笑ってるよ。どーゆー事よそれ。なんて思ってたらさ、フェイシャルの方から恵美のシャキシャキした低めの声が聞こえてくんのよ。
「単刀直入に訊くけどな、花ちゃん、神崎さんの事、どう思うてはんの?」
えー? 何を言い出すんだ、藪から棒に!
「何でよ?」
「神崎さん、花ちゃんの事好きや思うねん」
「そんな訳ないでしょー! この野生のカバみたいなのを!」
「大丈夫、私が綺麗にしてあげます、スーパーエステティシャン・タクマの名に懸けて!」
「てかさ、毎朝毎晩、花ちゃんの食事作ってくれるんやろ?」
「うん」
「お弁当まで」
「うん」
そこで別のエステティシャンの声が割り込んで来る。
「茅野様、口元やりますからね、少しお喋りはストップしてくださいね」
「はーい、沙紀、任せたで!」
「了解! でさ、朝昼晩のご飯作ってくれはって、会社に来るんも帰りも一緒やん? あれは絶対、花ちゃん狙いやって」
「有り得ないじゃん、あの神崎さんとあたしじゃ、まるで釣り合わないでしょ?」
「釣り合う釣り合わへん、そーゆー問題ちゃうねん。恋にそんなもんは関係あらへんのよ!」
「よし、よく言った、沙紀!」
「茅野さん、動かないでください」
「はい」
なんだかなー……。
「花ちゃん様、ソニック入りまーす」
「沙紀様も口元行きますよ~」
「え~? 萌乃、バトンタッチ!」
「ラジャー!」
隣のカーテンから萌乃の鼻に掛かったような甘ったるい声が聞こえてくる。
「ほんでな、神崎さん、試験場で『花』言う文字、石で書いとったやん? あれでもう確定や思うててん」
「あれは、試験場に花が欲しいからって言ってたじゃん。あ、あったかくなってきた。ウエストと太腿」
「はい、内側から温めてますよ~」
「電子レンジっぽいね」
「そうです、よく御存じですね」
「ちょっと~、タクマさん、話の腰折らんといて~」
「あ、すみません!」
「ごめん、あたしが折った」
「もーいいから~!」
「萌乃様。リンパマッサージスタートしまーす」
「はーい」
とそこで思いがけない伏兵、タクマさんが堂々と割り込んで来たんだよ。
「その神崎様って方、どんな人なんですか?」
「すっごいカッコええねん。背ぇも高くて超イケメンでな、仕事もできるんやけど、お料理もクルマの運転も上手やねん。ほんで優しくて紳士的で……あーん、なんであんなに素敵なん? モエの執事になって欲しいし。執事萌え~」
「その神崎様が花ちゃん様に気がありそうだと言う事なんですね?」
「そーそー」
タクマさん、なんであんたまで……。
「GWどこかに行かれました? 神崎様と」
「え? 行ったけど……」
「どちらへ?」
「龍安寺」
「他には?」
「水族館」
「手は繋がれました?」
「ええっ?」
「どうです?」
「つ、繋いだけど」
フェイシャルの方から得も言われぬ叫びが……。
「花ちゃん様から?」
「ううん、神崎さんの方からだけど。あ、でも、混んでて迷子になりそうだったから」
「腕を組んだりは?」
したな。確かにした。
「えっと、置いて行かれそうになって、慌てて腕を……掴んだって感じで」
「なるほど……他にはどちらに行かれました?」
「ええっ? お、お花畑……かな?」
「どちらのお花畑ですか?」
それ、言うのか?
「えーと……淡路島……かな?」
「淡路島ですか。日帰りでは無理ですよね? どうされました?」
「ちょっとー、なんでタクマさんまで?」
「今はお話しになれない茅野様と沙紀様の分も、私が伺ってますので」
ってタクマさん、100万ドルの笑顔で巨乳を揺らすんだよ。てかなんであんた、そんなにウエストくびれてるのにバストデカいのよ?
「で、どちらに泊まられました?」
「え、あ、あの、ペンションに」
「ご一緒の部屋に、ですか?」
「あ……うん」
きゃああああ~~~、と黄色い声が響き渡るのは最早免れない状況で……。
「何かありました?」
「ある訳ないでしょー!」
「うふっ、紳士的な方なんですね」
「……うん。着替える時とか出てったし。だって別に付き合ってる訳じゃないんだからさ」
「付き合ってるわけでは無い男性とペンションで同じ部屋に泊まったと、なるほど~」
「なによ~」
タクマさん、なんか知らんけど、勝ち誇ったように笑うとマッサージジェルを手に取って、あたしの脚にドバっと塗り付けたんだよ。
「花ちゃん様、あなたはどうなんです? その素敵な紳士の神崎様をどのように思われていらっしゃるんですか?」
「そ、それは……」
「それは?」
「……好き……かな」
「いいえ『大好き』の間違いですよね~?」
「……うん。大好き」
フェイシャルの二人が「ふんごー!」って叫んでる。萌乃も隣で「きゃ~花ちゃん可愛い~」って。
「てかそれ、誘導尋問じゃん!」
「誘導尋問だろうが何だろうが、言質を取るのが目的ですから。うん、ディテクティブ・タクマ、今日も冴えてるわ!」
両脚を広げて仁王立ちになり、腰に手を当ててジェルのチューブを高々と掲げ、視線を斜め上45度にピタリと据えたタクマさんにあたしが言いたい事はただ一つ、頼むから仕事してください、なんだよ。
「大丈夫ですよ、花ちゃん様。その神崎様、きっと我慢できなくなります。近いうちに花ちゃん様にモーレツなアプローチをかけて来る筈ですから、花ちゃん様はそのサインを見逃さないでください。それで全ては上手く行きますっ! 愛のコンシェルジュ・タクマを信じてください」
3人の割れんばかりの拍手に、タクマさんはゲジゲジみたいな長い付け睫毛の付いた二重瞼でバチッとウインクを決めて応えるんだよ。カーテン引いてあるから誰も見えないっつーのに。
なんだかなぁ、『愛の遣唐使・タケさん』とか『愛のコンシェルジュ・タクマさん』とか、あたしの周りには不思議な人がいっぱいだ……。
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