第157話 この朴念仁!

 神崎さんのご飯は、それが和食であろうと洋食であろうと美味しいんだよ。ガンタの言うのがわかるんだよ、料理は愛情ですって。

 だけどね、今日のは神崎さんにしては妙に簡単なんだな、昨日の疲れが残ってるのかな?


「そう言えば、昨夜何か下拵えしてたよね」

「あ、ああ、そうでした。忘れていました」

「忘れてこれ作ったの?」

「ええ、何も無いなぁと思って、簡単な物にしてしまいました。そうか、昨夜何かしたなぁ、何だったか……」


 え? 神崎さんらしくない。どうしちゃったの?


「ねえ、もしかしてすっごい疲れてるんじゃない? ずっと運転してたし。今日はゆっくりしようよ」

「そうですね。自分で思うよりも疲れているかもしれませんね」

「後片付け、あたしがやるから。いつも神崎さんにやって貰ってるし」

「いえ、いつも自分の趣味でやってますのでお気になさらないでください」

「でも今日はあたしがやる」

「そうですか。それではお願いします」


 気のせいかな、顔色もあんまりよくないような気がする。パイングリーンのTシャツが、そんな顔色に見せるのかな? あれ? Tシャツ? エプロンしてない。神崎さんが料理するのにエプロンしてない。嘘でしょ、やっぱなんかいつもと違うよ。

 あたし、思わず立ち上がって、神崎さんの方に回ったんだよ。それで、お母さんがよくやってくれたみたいに彼のほっぺたを両手で包んで、おでことおでこをくっつけたんだ。神崎さん、そりゃーびっくりした顔でキョトンとしてたけど、んなこたあ構っちゃいられない。


「神崎さん、やっぱ熱あるよ。ボーっとしてるでしょ?」

「熱……ですか?」


 ほっぺたを包んだ手をそのまま下に滑らせて、首の辺りも触ってみる。しっかし長い首だな、前世キリンか?


「うん、やっぱ熱い。寝てた方がいいよ」

「大丈夫ですよ、大したことありません」

「だめ! ちゃんとあたしの言うこと聞きなさい。お利口さんにしてないと、ベッドに縛り付けるからね」


 って言った時に、ちょうどあたしのスマホがアンパンマンマーチを奏でたんだよ。


「あ、恵美からメールだ。……え? マジ?」

「どうかなさいましたか?」

「沙紀と萌乃と恵美と四人で京都に遊びに行かないかって」

「行って来たらいいですよ、お疲れでなければ」

「でも、神崎さん……」

「僕は今日は寝ている事にしますから、家に居てもつまらないですよ。まあ、僕が起きていても面白いとは限りませんが」


 一緒にいるだけで嬉しいんですけどっ! そーゆー事、気づいてくれませんかね、この特別天然記念物級朴念仁は。


「行ってらっしゃい。茅野さんたちと休日に遊ぶことももうできなくなりますから」

「うん……」


 あたしは神崎さんと一緒に居たいけど、神崎さん、あたしが居たら気を遣っちゃうよね。あたしが出かけてた方が静かに休めるかも知れないし。


「じゃあ、そうしようかな」

「あとでお土産話を聞かせて下さい」

「うん。神崎さん、しんどかったら無理しちゃダメだよ? ご飯作らなくていいんだからね。ちゃんと休んでてね。お願いだから」

「フフ……山田さんにお願いされてしまいました。そうします」


 それからあたしは恵美に返信して、神崎さんの事はだいぶ心配だったけどお出かけしたんだ。

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