第155話 おやすみのキス
家に着いて、寝ぼけ眼のあたしがぼんやりしてる間に、神崎さんがお風呂沸かして荷物を全部運び込んでくれて、何から何までテキパキとやってくれたの。
まあ確かに今日のあたしは大興奮だったし、凄いたくさん歩いたから、自分で思うより疲れていたとは思うんだけどね。それにしても爆睡し過ぎだろ。
そんなあたしを見て、神崎さんてば「山田さん、今日はお疲れでしょうから、先にお風呂に入って休んでください」とか言っちゃって、なんやかんやとあたしを気遣ってくれるの。絶対疲れてる筈なのに。淡路島からずっと運転して来たんだよ? あたしが隣でグーグー寝てるのにさ。
なんでこんなに優しいんだろう? こんなイケメンでこんな優しいのに、なんであんた彼女居ないのよ? ツタンカーメンの墓にアボカドお供えしてあった事よりも謎だし。
で、あたし、神崎さんの言うとおり先にお風呂に入ったのよ。淡路島に行ってる間、普通に一人前の食事しかとらなかったし、いっぱい歩き回ったから、体重減ってたよ。それになんかちょっと締まったような気もするよ。脚とか。他の人が見たって判んないとは思うけど、あたしにとっては結構な変化なのよ、これ。凄いよ、この調子ならあたし痩せられそうだよ。
それでお風呂から上がってきたら、また神崎さん例のチャコールグレイのエプロン着けて何か仕込んでるのよ。相変わらずすっごい似合うんだけど、帰って来たばっかりなのに明日の朝食の準備なんて、なんか申し訳なくなって来ちゃった。
「ただいま~。それ、明日の朝食の下ごしらえだよね?」
「ええ、そうですよ」
チラッと顔を上げて、あたしと目が合うとニコッとしてくれる。こうやってエプロン着けて包丁握ってる神崎さんて、なんて素敵なんだろう。素敵過ぎて死にそう。愛おしくて仕方がないよ。
「愛してる……」
「は? 何か仰いましたか?」
「えっ? あ? ううん、何にも言ってない!」
「そうですか」
何? 何? 何? 今あたし、何つった? なんかとんでもない事言ったような気がする! しかも無意識だった!
パニクってるあたしを余所に、神崎さんは静かにエプロンを外してキッチンから出て来たんだよ。
「僕もお風呂に入って来ます。山田さんはお休みになっててください」
「うん」
「あ……」
ん? 何を思ったのか、お風呂に向かった神崎さんが急に立ち止まって、くるっと振り返ったんだよ。
「え? 何、どうしたの?」
「おやすみのキスをしていただいておりませんでした」
「えっ……」
「届きませんか? 屈んだ方がいいですか?」
ってもう屈んでるしっ!
「おやすみのキス、するの?」
「ええ、新婚ですから」
「まだやってんの?」
「いけませんか?」
「いいよ」
あたしは体を折っている神崎さんのほっぺたにチュッて軽くキスをした。そしたら満足そうに笑った神崎さんもあたしの肩に手を乗せてさ。
「僕からも。おやすみなさい」
そう言ってあたしのほっぺに……と見せかけて!
唇にチュッて!
「えっ! かんざ……」
神崎さんはもう振り返らずに真っ直ぐお風呂に向かっちゃったんだよ!
眠れるわけねーだろっ!
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