第144話 それは名案です

「俺はペンションたけの次期オーナーのカズな。お父さんはタケ。タケってダサいから早くカズにしたいねんけどな。神崎さんたちここの部屋やで」


 つんつん頭に真っ赤なTシャツを着たカズ君は、慣れた様子で部屋のドアを開けてくれたんだよ。 

 だけどさ。案内された部屋はどう考えても間違ってるとしか思えないんだな。大丈夫か、ベルボーイ?


「ツインでお願いしたんですが」

「うん、わかっとるわ。うちはファミリー向けやからツインが一部屋、トリプルが一部屋、シングルとダブルの入った部屋が一部屋あんねん」


 エライしっかりした子だな。


「ここはシングルとダブルですね」

「そやで、お父さんがシングルで、お母さんと小さい子供がダブルベッドで一緒に寝る為に作ったファミリールーム!」

「ですから、僕はツインをお願いしたんです」

「知っとるがな。そやけど今日は神崎さんたち以外にお客さん居ーひんねん。だからここでええねん。ちゃんとツインの料金にしとくし心配せんでええで。俺が決めてええねんから。この部屋はテラスも広いし、そこでバーベキューできんねんで。他の部屋より絶対お得やって。ところでお姉ちゃん名前は?」

「山田花子」

「神崎さん、下の名前は?」

「秀一です」

「ほんならこの部屋で花ちゃんがダブルで寝て、秀ちゃんがシングルで寝たらちょーどええやん?」


 鳴門海峡に放り込むぞ!


「それにさ、秀ちゃんと花ちゃんがダブルベッドで一緒に寝たってええやん」


 なんちゅーこと言い出すんだこのガキは!


「それもそうですね。名案です」


 神崎、お前もか! でも、それもいいな。てか花子、お前もか!


「だろ? 秀ちゃん、花ちゃんと恋人同士なんやろ? それやったらもう、一緒でええやん。どーせ一緒の部屋なんやし」

「恋人同士という訳ではありませんが」

「えー? ちゃうの? ほんなら、今すぐ恋人になったらええわ」

「そーゆー問題じゃないんだけど」

「キセイジジツ作っちゃえよ」

「はぁぁぁぁ?」

「それは名案ですね」

「えーと、お風呂のご案内でーす。んとな、お風呂はご家族単位で入って貰ってますー。けど、今日のお客さんは秀ちゃんと花ちゃんだけやし、好きな時にテキトーに入ってええし。二人で一緒に入ってもええねんで。ご家族単位やし」

「それも名案ですね」

「ヲイ、神崎!」

「あ、失礼しました。山田さんがダメだそうです」


 カズ君が何か言いたそうに腕組んでこっちをジト目で見てる。


「素直じゃねーな、花ちゃんは。ま、ええわ。頑張れよ、秀ちゃん!」

「はい、そうします」


 神崎さん楽しそうに笑ってるし! 何なのよー、神崎さんとこのチビと二人であたしをおちょくってる?

 と思ったら今度はカズがテラスの窓を開けて手招きしてる。


「この部屋、テラスにテーブルあるから。このテーブルはバーベキューコンロ埋め込んであるから、ここでバーベキューできんねん。夕ご飯はここで食べてや。部屋ん中やと、服にニオイつくし。焼き方分かれへんかったら俺呼んでや」

「ありがとうございます」

「あとはー。裏にヤギとウサギが居てるし、ニワトリ居るから、朝はそれで目ぇ覚めるかも知れんで。夕ご飯どーする? すぐ食べるんやったらすぐ持って来るし」

「では、少々片付けたいので30分後くらいにお願いします」

「了解。ほんなら、なんかあったら俺がさっきのとこに居てるから、なんでも言いに来てな。失礼しましたー!」


 カズ君はちゃっちゃと説明を終えるとさっさと部屋を出て行ったんだよ。何なんだ? 凄いよ、あの子。めっちゃ仕事できるよ。


 てーか!

 チョイ待ってよ、カズ! あたしたちを二人にしないでよっ! どーしよ、二人っきりだよ。

 いや、この構図はいつもと一緒だ。いつも通りだ、問題nothingだ。

 いやいやいやいやいや、いつも通りじゃねーよ! ベッドがあるんだよこの部屋には! どーするよ、花子!


「小学校2年生ですね」

「え、何で判ったの?」

「先程玄関にランドセルと名札が置いてありました」

「よく見てるね」


 神崎さん、満足そうに笑いながら荷物を置くと、ストールを外して椅子に掛け、シングルの方のベッドに腰掛けたんだよ。


「僕はこちらのベッドを使わせていただきます。どうせ『気を付け』で寝ますから。山田さん、そちらのダブルベッドで広々とお休みください」

「ベ……別に、あたしだってシングルでも問題ないけどっ」

「僕が問題あるんですよ。あなたにダブルを使って貰わないといけません」

「へ? なんで?」

「後で僕があなたのベッドに侵入するからですよ」


 なんですとーーー!


「……! じょ、冗談ですってゆーんでしょ、また!」

「さぁね」


 今日の神崎さんのジョークはなんだかシャレにならん。

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