第143話 ベルボーイ
夕方、今日の宿泊先の『ペンションたけ』に着いたんだよ。『ペンションたけ』ってゆー割に、どこにも竹なんて無い。その『たけ』じゃないらしい。オーナーさんの名前か何かなんだろうな。
そこがなかなかにややこしいところにあるらしくって、迷っちゃったりして、その辺のオッチャンに道聞いたりしてさ。
「あ~、タケさんとこね。あそこは判りにくいんだわ。でもタケさんとこはええよ、ヤギがおる。今、奥さんおめでたやさかいボウズが手伝いやっとるわ」
なんてさ。
てかさ、奥さん妊娠中なんでしょ?ボウズが手伝いって、そのボウズも小さい子供なんじゃないの? てか誰か手伝いに来てんでしょ?
着いたよ。ペンションたけ。小っちゃいよ。マジで小っちゃいよ。でも玄関前の花壇にはお花がたっくさん咲いてるんだよ。
ゴキレガシィのエンジン音を聞きつけたのか、中から小学校低学年くらいの男の子が元気よく飛び出してきたんだよ。
「いらっしゃい! お兄ちゃん、神崎さん?」
「ええ、そうです」
って、神崎さん動じないよ。あたしは目ぇ白黒させてんのにさ。あんた驚かないのかよ。
「了解。クルマそっち停めて。その木の横」
「はい、わかりました」
神崎さんがクルマを移動すると、その子は小さいながらもしっかりとクルマを誘導してんだよ。
「オーライ、オーライ、オーライ……ストーップ! 神崎さん上手いやん」
「お褒めに与り光栄です」
クルマを降りると、その子が「いらっしゃいませ! ペンションたけへようこそ!」って挨拶してくる。マジ可愛い。
「部屋案内するで。お姉ちゃんの荷物は俺が持つわ」
「え、いいよ。大丈夫だよ」
「何言うてんねん。これは俺の仕事なんや」
「え、仕事なの?」
「そやで。そんにレディに荷物なんか持たせられへんやん」
って、その子、あたしのボストンを注意深く引きずらないように持って、あたしたちの先に立って案内してくれるんだよ。それでさ、入り口のドアを開けてさ、ドアが閉まらないようにちゃんと押さえて「どうぞ」とか言ってさ、すっごいちゃんと仕事してんのよ。
「神崎さんお越しでーす!」
って大声出したらさ、アラフォーくらいの人の良さそうなヒョロヒョロのオジサンが出て来たんだよ。
「いらっしゃいませ。神崎さん2名様ね。私はここのオーナーのタケです」
「お世話になります」
「申し訳ないんですけど、家内が身重で悪阻が酷くてね、私が夕飯の準備で手が離せないんで、コイツに案内させますんで。生意気なこと言ったらひっぱたいて貰っていいですから」
ホントにこの子に手伝わせてるんだ!
「とても優秀なベルボーイですよ。彼にお願いしますから、どうぞお仕事を続けて下さい」
「すいませんね。カズ、ちゃんと仕事しろよ」
「任せとけって。ほんなら神崎さまご案内しまーす」
あたしたちはこの可愛らしいベルボーイに案内して貰う事になったのだ。
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