第141話 ハンバーガー

 結局、あれから周遊バスの逆回りに回って行って、メリーゴーラウンドと、ティーカップと、迷路を攻めたんだよ。それで今はお腹減っちゃって、ご飯食べてるんだよ。


 今日はすっごく珍しいんだけど、神崎さんがハンバーガー食べてるんだよ。あの神崎さんがハンバーガーだよ? びっくりだよ。天変地異が起こるよ。それこそ神崎さんに日頃の筋トレの成果を見せて貰う時が来るよ。

 でもそれを言ったら逆にびっくりされたんだよ。「僕はハンバーガーを食べないように見えますか?」ってさ。見えないから驚いてんのにさ。だけどそれはそれで可笑しくてまた笑っちゃったんだけどさ。


 さっきの神崎さんはムチャクチャ可愛かったんだよ。嬉しそうにメリーゴーラウンドの白馬に跨ってさ、「白馬に乗った王子様と言うのをやってみたかったんですよ。王子様に見えますか?」なんて言ってんだよ。そんな事しなくたって十分王子様なのにさ。

 それで「プリンセス花子を迎えに来てくれんの?」って聞いたらさ、「そうしたいのはやまやまですが、この馬は固定されていて絶対にそちらに行けないようにできています」だってさ。もー、さっきの夢のある発言どこ行ったのよ!

 

 その後、「あんまりグルグル回さないで下さいよ?」なんて苦笑いしながらティーカップに乗ってさ。あたしがガンガン回そうとしたら「ダメです~」なんて言いながらあたしの腕を押さえつけてさ。

 それでティーカップ下りたらフラフラになってるかと思ったら涼しい顔して「じゃ、迷路行きますか」なんて言ってるしさ。何なのよもー。


 迷路に入ったら暫くして直ぐに「ああ、なるほど、見えました」とか言っちゃってさ、「僕はもう答えのルートが判ったので山田さんについて行きますよ」なんてゆーの、むっちゃ癇に障るし! そんであたしの後ろからニヤニヤしてついてくんのよ。


 だけど、その間もずっと手は恋人繋ぎのままで……。


 あたしが「もうわかんないよ~、お腹減って動けないよ~」って降参したら、「こっちですよ」ってあたしの手を引っ張んの。もう腹立つくらいすぐに出られちゃた。すっご悔しいんですけどっ!


 で、今。ハンバーガー食べてんの。


「コレってやっぱ、『淡路の玉葱』ってやつだよね」

「それはそうでしょう。淡路島まで来て他所の玉葱って事は無いでしょう」

「それにしても玉葱いっぱい。美味しい」

「照り焼きソースとマヨネーズが合いますね。チーズとトマトとレタスと、それにマスタードか。これも作れそうだな」


 また作る事考えてるよ。ほんとこの人って、どこへ行っても何を見ても自分の物にしてくんだな。尊敬しちゃうよ。


「ねー、ご飯食べたら凱旋門の方、見に行こうよ」

「そうですね。すぐそこに見えましたね」

「あたし、日本から出た事無いんだ」

「えっ? そうなんですか?」


 コーヒーカップを口元まで持って来た神崎さんが、驚いてカップを戻したよ。そんなに驚く事かなぁ?


「ガンジス川下流でパンツが洗えたり、ゲテモノでも食べられると仰ってらしたので、てっきりインドやアフリカやオセアニアの島国などを攻めまくっているのかと思ってました」

「神崎さんはどこ行った事あるの?」

「う~ん……」


 細長い指を1本ずつ折って数えてるよ。そんなごく普通の仕草もカッコ良く見えるのは何でだよ? ずるいよ、あんた!


「パリ、ロンドン、ニューヨーク、ワシントン、シンガポール、ドバイ、カイロ、シドニー、上海、ウィーン、マドリード……あ、リオデジャネイロも行ったな」


 う……そんなに何しに行ってんだ? てかなんでタヒチとかプーケットとかミコノスなんて言うリゾート地じゃないんだ?


「山田さんも新婚旅行で行けばいいんですよ」

「新婚旅行って結婚しないと行けないんだよ?」

「ええ、そうですね。すればいいじゃないですか。その時に行きたいところを配偶者になる方におねだりすればいいんですよ」


 だ・か・ら! 神崎! おまえだーーーーー! あんたにおねだりしたいんだ!


「新婚旅行で全部行くのなんて無理じゃん」

「世界一周クルーズなんてどうです? リアルタイタニックごっこですよ」

「リアルタイタニックって、沈んだらシャレにならん」

「そこまで正確に再現しないでください」

「いーよ、身の丈に合った人と身の丈に合った新婚旅行で」

「僕が連れてってあげますよ、どこにでもあなたの行きたいところに」

「ほえ?」

「え……あ……いえ、ですからその、これからミニチュアの世界に」

「ああ、そうね。まずは凱旋門からね」

「……そうですね」

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