第140話 あの……手……
フフフ……来たのだよ。パリに。ローマに。サンクトペテルブルグに。ここは世界の有名な建築物がミニチュアで揃うテーマパークなのだよ。前から来てみたかったんだよ。本物のパリやローマには行った事無いけど、ここなら中国やスペインにも行けちゃうんだよ。
神崎さんの提案で、まず最初に園内ガイドをしてくれる周遊バスみたいな奴に乗ってんだよ。って言っても、真っ赤なSLをかたどった可愛らしいトロッコみたいなのが3つほど連結されたバスなんだけどさ。小さい子供連れの家族なんかが乗るような奴なんだよ。
だけどさ、今日は祝日なのにかなり空いてて、今はあたしと神崎さんの貸し切りバスになってんだよ。
運転手のオッチャンの滑らかなガイドを聞きながら、あたしらはどこに何があるかチェックしてんだよ。
「あっ、スフィンクス」
「ピラミッドもありますね」
「ローズガーデンがあるって」
「行ってみましょう。バラは大好きです」
「あ~お船がある。あれも乗ろうよ」
「いいですよ」
「何あれ、ゴーカート?」
「そうみたいですね」
「あれならあたしも運転できるよ」
「フフ……では後で山田さんの運転で助手席に乗せていただきましょうか」
「いいよ。あたしのテクで腰抜かすんじゃないよ~」
「どれくらいスピードが出るんでしょうね」
「普通に走った方が早いかも」
あ、ピサの斜塔が見えてきた。運転手のオッチャンがいろいろガイドしてくれる。凄い凄い、万里の長城に小さい人形がいっぱいいる! あっちはノートルダム寺院、こっちはパリの凱旋門だ。
「ねーねー、迷路入ろうよ」
「いいですよ。競争しますか? 一緒に回りますか?」
「競争したら負けるから一緒に行く」
「はいはい」
「あー、ティーカップあるよ」
「あれは僕は苦手なんです」
「派手に回さなければ大丈夫?」
「では、ソフトにお願いします。あ……」
「何? どうしたの?」
「メリーゴーラウンド」
「好きなの?」
「好きなんです。あれはどうしても乗りたい」
やだ、可愛い。
なんて思ってる間に一周して戻って来ちゃった。運転手のおじさんにお礼を言ってバスを降りると、神崎さんがあたしの手を握って来た。こんなに空いてるのに?
「行きましょうか」
「今日、ガラ空きだよ?」
「そうですね」
「あの……手……」
「手がどうかしましたか?」
「迷子にはならないけど」
「そうですね」
「あの……」
「なんですか」
いいのかなぁ。こんなふうに手を繋いでても。ってちょっと上目遣いに神崎さんを見る。まあ、あたしの方が26センチも小っちゃいんだから、どうやったって上目遣いにはなるんだけどさ。
「ああ、この手の繋ぎ方がご不満でしたか。すみません、気が付きませんで」
って、えええ? わざわざ一度手を離して、恋人繋ぎにしちゃったよ。
何これ? 確信犯? なんで?
だけど神崎さん、涼しい顔であたしを引っ張ってくんだよ。
「さて、どこから回りましょうか?」
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