第125話 なんで照れてんの

 今日は朝から雨なんだよ。昨日のうちにお出かけしといて良かったねって、朝から神崎さんと笑ってたんだよ。

 その神崎さんはさっきから貝殻に何か細工してるんだよ。これがイヤリングになるのかなって思うとワクワクするんだよ。


「ねえ、そのヤバそうな機械なーに?」

「これですか、これは穴を開けるドリルです。ピンバイスって言うんですよ」

「へー。それであたしのお腹に穴開けたら脂肪とか出せないかな」

「無茶言わないでください。自殺幇助罪で捕まってしまいます」


 またややこしいこと言うし。


「コーヒー淹れよっか」

「僕が淹れましょう」

「いつも淹れて貰ってるから、今日はあたしがやるよ」

「ではお願いします」


 なんかいいなぁ、こういうの。お家でまったりと過ごす休日もなかなかいいもんだ。家族っぽいよ凄く。雨に感謝したりしちゃうんだよ。


「ねえ、神崎さん」

「はい」

「なんかさ、家族みたいだね、あたしたち」

「……そうですね」

「お兄ちゃんみたいだよ、神崎さんて」

「山田さん、ご兄弟はいらっしゃるんですか?」

「5人兄弟の末っ子。兄と姉が二人ずつ」

「なるほど。なんとなくわかります」

「何が?」

「ちょっと甘えんぼさんなところがあるので、末っ子かなと思ってました」

「神崎さんて、モロ第一子の長男だよね」

「そうですか?」

「面倒見が良くて責任感が強くてマイペース」

「まあ、マイペースですね」

「神崎さんみたいなお兄ちゃんだったらよかったのになぁ、家の兄ちゃんたち」

「お兄ちゃん、ですか」

「ん?」

「別の立場は無しですか?」

「へ? 弟とか? お父さんとか? 神崎さんが?」

「いえ……その……配偶者とか」

「え、何?」

「いえ、何でもありません」

「何よー、聞こえなかったよ。神崎さんてたまーに大事なところをモゾモゾ言うんだもん」

「いえ、いいんです。何でもありませんから」


 コーヒーを二つ持って来たけど、両方あたしの前に置いた。だって神崎さんの前、なんかヤバそうな工具とかパーツがいっぱいあるんだもん。


「ねえ、神崎さんがお兄ちゃんだったら、あたしの事なんて呼ぶかな」

「山田さんをですか?」

「うん。山田さんとは呼ばないでしょ?」

「そうですね。花……子。照れますね」

「なんで照れてんのよ」

「家族以外の女性をそのように呼んだことが無いので」

「妹さんの事なんて呼んでるの?」

「普通に名前を呼び捨てです」

「じゃあ花子って呼ばれるんだ」

「やめて下さい、なんだか照れてしまいますから」

「変なの~、あはははは」


 なんか神崎さん、あたしと二人だけの時とみんなと一緒に居る時、人格違うよ。最近特にそうだな。なんて言うのかな……可愛い。うん、可愛い感じ。みんなと一緒に居るとあのいつものクールで知的な神崎さんなのに、みんなが居ないと途端に可愛らしくなる。拗ねてみたり、照れてみたり、モゴモゴ言ってみたり。

 きっとこれはあたししか知らない神崎さんだ。城代主任も知らないんだろうなぁ。教えたら城代主任どんな顔するかなぁ。

「え~、神崎君が?」「へ~、そんな可愛いとこあるのね」「あら、私の前ではいつも甘えてるのよ」あ、これありそうだな。


「また出かけたいですね。昨日は本当に楽しかった」

「うん、あたしも。白鷺覚えたし」

「そこですか」

「うん」


 神崎さんが笑いながら貝殻に穴を開けてる。手元狂わないのか?


「あんな風にさ、木がいっぱい生えてて、だだっ広くて、お花がたくさん咲いてて、もっと欲を言えば何か動物がいるようなとこ、神崎さんと一緒に行きたい」

「僕と……ですか」

「うん、神崎さんと。みんな街中の事は知ってるけど、自然の中の事って知らないじゃん? 神崎さんはお花も木も鳥も虫も魚も、ぜーんぶ詳しいもん。だから神崎さんと一緒に行くと楽しいんだよ」

「そう言っていただけると僕も嬉しいですよ。行きましょうか、どこかそういう所。この辺から行けるところ……どこかあったかなぁ」


 暫く考えてた神崎さんが、「あっ」って小声で言ったんだよ。


「どうしたの?」

「あ、いえ……あるにはあるんですが。ここからでは日帰りは難しいですね。でもそれより近場は……うーん。無いかなぁ」

「ね、因みにそれってどこ?」

「先に言っておきますが、無理ですからね」

「うん」

「淡路島です」

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