第124話 鈍感なんです

 午後10時。あたしは夕食も終わってお風呂も入って、ダイニングテーブルでプーアル茶を飲みながら、神崎さんと一緒にアクセサリーにする貝殻を選んでるんだよ。

 渡月橋の後、手芸屋さんに立ち寄ってイヤリングパーツを買って来たんだ。神崎さんは『丸カン』とか『T字ピン』とかあたしには一体何に使うのかさっぱりわからないようなパーツも仕入れてた。

 それと天然石ビーズ。「ピンクトルマリンとローズクォーツならローズクオーツの方が山田さんに似合ってますね」とか何とか言いながら、あたしにゃさっぱりわかんないんだけど、淡いピンクの――今日の神崎さんのシャツみたいな色の石にしてた。それと、自分用とか言って紫色の石と。

 その天然石ビーズを白いタオルの上に並べてデザインを考えてるみたい。何かさっきからブツブツ言ってる。


「山田さん、決まりましたか?」

「うーん、二枚貝にしようか巻貝にしようか悩んでる」

「このサルボウガイのような二枚貝なんかどうです? 可愛いと思いますが」


 神崎さんが小さな二枚貝を一つつまんで、あたしの耳元に当てるんだけど、それがくすぐったくて肩が上がっちゃうんだよ。


「いひひひ……くすぐったいよ」

「ちゃんと真っ直ぐにしていてくれないと、似合うかどうかわかりませんよ」

「だってぇ」

「我慢です」

「ううう~」

「巻貝も可愛いですけど、やはりここは二枚貝ですかね」

「もういい?」

「もうちょっと意地悪しようかな」

「もー神崎さんてば」

「山田さんが可愛くて仕方がないんですよ」

「え……」


 だけど神崎さんてばもう知らん顔でタオルの上に貝殻並べてるんだよ。何なのよその思わせぶりな態度はー。


「やはりここはサルボウガイですね。貝殻の白にローズクオーツのピンクが映えます。丸ピンで繋げば耳元でピンクと白が揺れて可愛いですよ」

「神崎さんのは?」

「僕も同じ貝で作ります。僕のはアメジストですよ。アメジストもローズクオーツも両方水晶ですから、色違いのお揃いです」

「神崎さんが誰かとお揃いを持つなんて意外だね」

「そうですか?」


 だってそんな甘甘なこと考えそうに無いじゃん。クールでスマートを絵に描いたような人じゃん。それが『お揃い』ですと?


「結婚したら奥さんとか子供とかとお揃いするの?」

「そうですね、きっと」

「てかその時、これどうするの? 奥さんが『他の誰かとお揃い持ってるんじゃないでしょうね』って言ったら、これどうするの?」

「そんな事はありませんから大丈夫です」

「なんで無いって言い切れるの?」

「大丈夫な人と結婚しますから」

「だって気が変わるかもしれないじゃん?」

「いえ、僕が結婚まで考えた事がある女性は未だ一人しかいないんです。まだ2週間ほどの付き合いでしかありませんが。その人はどうしようもなく鈍感で、僕がいくらアピールしても全く気付いてくれないんです」


 いやいや、気づいてると思うよ。あれだけ雰囲気良かったし、だーれも近づけないようなオーラ全開だったし。てーかさ、さっきみたいにあたしに思わせぶりな態度取ったり、萌乃に「園部さんとはまた今度」なんて言ったりするから、本気だと受け取って貰えないんでしょーが。あちこち浮気しないで「あなただけしか見えません!」みたいなアピールすりゃいいのにさ。ほんと、女心ってもんを判ってないよね、この朴念仁は。


「大丈夫だよ、きっとそのうちに気づいてくれるから。それより神崎さんの方からアピールの仕方変えてみた方がいいんじゃない?」

「……そうかも知れませんね」

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