第123話 優越感?

 来たよ。渡月橋だよ。パズルとかポスターとかそんなのにある構図だよ。桂川にかかる渡月橋のなんか中洲っぽいとこにいるんだよ。凄いよ、本物だよ。

 河原? って言っていいのかな、でも綺麗に整備されてて歩きやすいんだよ。お店も並んでるんだよ。多分距離にして200メートル程度だと思うんだけど、いい感じのお散歩コースなんだよ。龍安寺の池の周囲が多分400~500メートルはあったからそれに比べりゃ短いけど、視界がムチャクチャ広いんだよ。何せ川だから!


「あ、白鷺!」

「ここにも居ましたね」

「あっちにも居るよ」

「綺麗ですね。鳴き声は姿からは想像できないような声ですが」

「どんな声で鳴くの?」

「ぎゃあぎゃあ言うんですよ。僕も初めて聞いた時は何かと思いましたが」

「ねえ、あっち行ってみよ」


 今度はあたしの方から神崎さんの手を引いてみた。神崎さん、一瞬驚いたような顔したけど、すぐ笑って付いて来たんだよ。良かった、変な顔されなくて。


「結構水際まで行けちゃうんだね」

「落ちないで下さいよ。僕は泳げませんから助けられませんよ」

「え? 神崎さんてカナヅチ?」

「いえ、カナヅチではありませんが、整備されたプールでさえ2000メートル程度しか泳げませんから、着衣で流れのある川なんてとても泳げる自信がありません」


 2000メートル泳げる奴が『泳げない』ってゆーな! 喧嘩売ってんのか。


「お魚居るのかな?」

「向こうに釣りをしている人が居ますから。今から夕食の心配ですか?」

「違うし!」

「冗談ですよ」

「もー!」

「そうやって口を尖らせた時の顔、可愛いですね」

「え?」


 前にも言われたような気がする。


「今日……」

「へ?」

「いえ。何でもありません」

「なによー」

「いえ」

「言いなよー」

「いえ」

「言え!」

「いえ」

「オヤジギャグ?」

「いえ」


 何やってんだか。神崎さんにしてはなんか珍しく躊躇ってて歯切れが悪いな。


「何よ、言ってよ」

「笑いませんか?」

「わかんない」

「では言えません」

「笑わない」

「嘘つくでしょう」

「笑わないってば」

「では言いますが、山田さんとちょっとお揃いっぽくしたかったんです」

「は?」

「服」


 どこがお揃いっぽい? あたしピンクのチェックのシャツワンピにジーンズロールアップして履いてるだけ。神崎さんはペールピンクのシャンブレーシャツにネイビーのスリムストレートジーンズ。


「あ……そうか、ピンクのシャツにジーンズなんだ。ぜんっぜん似てないからわかんなかった」

「取って付けたようなお揃いではちょっとアレですが、これくらいならあまり気付かれないかと」

「そーだね、これあたしも気づいてなかったし」

「僕はこれでも必死だったんですが」

「えー、そうなの? あははは……はは……は? なんで必死にお揃いしてんの?」

「お揃いで出かけたかったからに決まってるじゃないですか」

「だから何でよ」

「仲良しっぽくていいじゃないですか」

「まあそうだけど」


 え? 何? なんでそんな悲しげな顔をする?


「仲良しっぽいの嫌ですか? もしかして僕の事お嫌いでしたか?」

「んなわけないじゃん」

「良かった。お揃いっぽいのが嫌なだけなんですね?」

「嫌だなんて言ってないよ」

「は? では何が問題なんでしょうか」

「問題ないよ。ただ、どうしてそうしたかったのか聞いただけ」

「ではこれでも構わないんですね?」

「うん。……てゆーか、神崎さんとお揃いっぽいの、ちょっと嬉しい」


 いや、あんた、そんなに驚かなくたっていいでしょうに。


「あの、山田さん」

「なーに?」

「お揃いっぽくないお揃い、一つ作ってもいいですか?」

「へ?」

「山田さんが天橋立で拾ってきた貝殻があるでしょう。あれでイヤリングを作る時、僕の物も何か一つ作らせていただいても構いませんか? 一緒に天橋立に行った記念に」


 おー、それは名案!


「うん、お揃いしよう! 何がいいかな?」

「クルマのキーに付けるキーホルダーが欲しかったんですよ」

「いいね! それならお揃いっぽくなくて、さり気にお揃い。あたしたちだけしか知らないお揃いだね」

「僕と山田さんだけ……そうですね。少々優越感のようなものを感じます」

「優越感?」

「ええ、岩田君に」


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