第122話 謎、ですか

 それからあたしたちは、ちょっと遅めのお昼ご飯を食べたんだよ。勿論京都に来たら湯豆腐だよ。ヘルシーだよ。『ダイエット中でも絶対摂りたい蛋白質(神崎談)』だよ。

 

「ここオシャレだね。全部の席から中庭が見えるのかなぁ?」

「そうでしょうね。中庭を囲んだ形になってますからね」


 その中庭ってのが、池があって灯篭があって躑躅が丸く刈り込んであって、でっかい石がゴロンゴロンと置いてあって苔がガッツリ生えてるよーな、そーゆー中庭なんだよ。池がちゃんとあるから『枯れない山水』な庭なんだよ。こーゆー庭はなんて言うんだろう?


「あふっ、あふっ……」

「大丈夫ですか? 猫舌でしたか?」

「ほんはほほはい、あふいはへ」

「?」


 そんな事無い、熱いだけ、って言ったんだよ。熱いんだよ、湯豆腐が。


「この生麩の田楽、美味しいですよ。家でも作ろうかな。これなら僕でも作れそうだ」

「はふっ」

「赤味噌と味醂と山椒の粉と……」


 料理屋さんの味を再現しようとしてるとこが凄い。挑戦しようなんて全く思わないし、逆立ちしても無理だと思う。


「こっちの湯葉も美味しいよ。とろっとしたのがかかってる」

「葛餡かけですね」

「筍の天ぷら、抹茶塩が合う~」

「鱚も合いますよ」

「キス?」


 う……。ガンタ思い出しちゃった。てかそれを神崎さんに見られてた事を思い出しちゃったと言うべきか。なんか気まずくってちょっと下向いちゃった。

 一番見られたく人ないに見られちゃったよなぁ。てか、あたしがした訳じゃないし、不可抗力だったけどさ。でも、神崎さんには見られたくなかったなぁ。なんかお父さんに見られちゃったような、そんな感じ。


「飛竜頭、美味しいですよ」


 ハッと顔を上げると、神崎さんが何でもない顔してこっちを見てる。けど、目が笑ってない。あたしが考えてたこと読まれてる。うう~、お父さん的反応だ。


「昨日、山田さんが岩田君のお宅に行っている間に、デザインを考えておいたんです」

「え? 何の?」

「天橋立で拾った貝殻をイヤリングにすると仰ってたでしょう?」

「ほんとにしてくれるの?」

「僕はやると言った事はやりますよ。昨日のうちにニスも仕入れてあります。明日にでも作ろうかと思ってます」

「凄ーい、嬉しー!」

「後で、どの貝殻を使うか選んでいただかないと」

「うんうん、選ぶ」

「山田さん、誕生日は何月ですか?」

「10月だけど」

「ピンクですね」

「え? 何が?」

「誕生石ですよ。オパール、ピンクトルマリン、ローズクオーツ。ピンクの石ですね。山田さんはピンクとは切っても切れないようです」

「神崎さんは何月?」

「2月です。紫水晶ですよ」

「あー、そんな感じ。神秘的な」

「僕がですか?」

「うん。謎が多い」

「謎……ですか」

「あ、いい意味でね」


 だって、存在自体が謎じゃん。珍獣の自覚ナシかよっ。


「何で石?」

「貝殻だけでは淋しいので、天然石のビーズをあしらうのはどうかと」

「えー、素敵! 神崎さん、発想が女子だよ!」

「それは褒め言葉と受け取っておきましょう。ん? この刻みすぐき、美味しいですよ」

「こっちの千枚漬けも」

「聖護院大根ですね」


 なんか漫才やってるみたい。


「ねえ、ご飯食べたらどうする?」

「そうですね、家に帰るには早いですね。どこかに寄り道しますか」

「この近くって何がある?」

「仁和寺と鹿苑寺がありますが」


 そこにちょうどお店の人が通ったもんだから、神崎さんが聞いてくれたんだよ。


「お車でおいでですか。ほんなら渡月橋は行かはりました?」


 うをう! 渡月橋! それ決定!


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