第115話 免許取る!
予想より遙かに美味しかったご飯を食べ終えて、あたしたちはまったりとお茶飲んでたんだよ。それも2リットルペットボトルの緑茶だよ。懐かしいよ、ペットボトルのお茶。味がチープだよ。神崎さんの作るお茶は低温抽出がどーのとか、アッサムとダージリンを1:2の割合でとか、ややこしい事に拘ってたんだよ。実際アホみたいに美味しかったけどさ。
だけどこれを懐かしく感じるって、あたしチープな方が合ってんのかな? 安いもの大量に食べてたからなぁ。質より量って感じだったし。神崎さんは小食だったけど、美味しいもの食べてたな。まさに量より質だった。
なんて思ってたら、ガンタが思いついたように言うんだよ。
「花ちゃん、ゲームしませんか?」
「ゲームって言っても、これ、レーシングゲームだよね?」
「そっちじゃなくてこっち、絶対やった方がいいっす」
って言いながらテレビ点けて、ゲーム機もオンにして、何かを起動したんだよ。そしたらさ、うちの建設機械がいっぱい並んだタイトル画面が出て来たんだよ。その名も『けんきんぐ』だよ。しかも何これ、専用コントローラまであるよ。
「これ、知ってますか? うちの会社が監修したゲームなんすよ。建設機械の運転を覚えられるんすよ。花ちゃん、これで遊んだら、実際の建機が運転できなくても感覚がわかるようになるんじゃないすか?」
「えー凄い、やるやる!」
「車体カラーも自分で選べるし、手のアタッチメントも変えられるんすよ。マシンクラスも何種類もあるし」
「マジで? コンマ8がいい」
「じゃ、このクラスっすね」
ガンタがコントローラを操作して、選択肢から中型クラスを選んでる。
「手は標準バケットでいいすか?」
「フォークバケットにして。色はピンク」
「最初は標準バケットで慣れた方がいいすよ。あとから変えられるし」
「じゃ、そうする」
「マシンに名前付けられるっすよ」
「FB80に決まってんじゃん」
「すんません、実はもう俺がFB80作っちゃってるんすよ」
考えることは同じだね!
「じゃあ、ピンクダイヤモンド花子にして」
「了解っす!」
名前を入力してピンクダイヤモンド花子の出来上がりだよ。なんか可愛いよ。
「農場を耕したり、林業やったり、道路工事やったりできるんすよ。あと、建築物の解体とか組み立ても。上級者になるとクレーンも操れるようになって、ビルの建設だってできるんすよ」
「それもどっかの建設会社が監修したんだろうね」
「ええとね……ああ、神崎建設すね。大手の」
「おもしろーい。橋とか高速道路とかも作れるの?」
「そうすね。俺はまだレベル上がってないんで農場の開墾と道路工事までしかできないんすけど」
「やるやる! やらして!」
「はい、ここ持って。まず練習モードから。この中で免許取らないと仕事できないんすよ」
「あははは、それ面白ーい。免許取る!」
もうノリノリだよ。めっちゃ楽しいよ。
「これがクローラの操作レバーっすよ。左のが左クローラ、右のが右クローラ、向こうに倒せば前進、こっちに倒せば後退」
「おー、進んだ! 片方だけやると曲がるんだね」
「簡単でしょ? で、クローラ一旦止めて、今度は上部旋回体の操作ね。左のレバーを左右に倒すと倒した方にキャブが回るんすよ。右を向きたい時は右に倒す」
「あーほんとだー。あ、やべ、真後ろ向いちゃった」
「大丈夫大丈夫。で次にアームの操作ね。そのレバーを向こうに倒すとアームが伸びて、こっちに倒すとアームが縮む」
「おおお、すごーいすごーい!」
「ここまで大丈夫すか?」
「うんうん」
「じゃ、今度は右レバー」
「この前あたしが慌ててつかまりそうになったヤツだね」
「そうそう。これはブームの方ね。向こうに倒すとブームが下がって、手前に倒すとブームが上がる」
あ、バケットが地面に激突。効果音がすげー。ドゴーンって言って画面が揺れる。
「ブームを下げる時はアーム縮めなきゃ」
「あそっか」
「だから左レバーと右レバーに分かれてるんすよ。現場の人はこれをスムーズに連動させて動かしててメッチャカッコいいっす。おやっさんも上手いんすよ。あー、でもここの試験場で一番上手いなと思ったのは神崎さんかな。あの人、マジで天才すよ。最初のテストの時、上手いな~とは思ったんすけど、その後で何回か見てて、神崎さんて仕事って言うより遊んでるようにしか見えないんすよ。そう言えばあの時も『花』って字を石で作ってたじゃないすか。なんか神崎さんの手に掛かると、ショベルは玩具みたいな扱いになってる気がするんすよね」
そう言えば、小さい頃からミニショベルとかミニクレーンで遊んでたって言ってたもんなぁ。
「あ、そうだ、続き教えなきゃ」
「はい、先生!」
「まずそのブーム上げて。右レバーを手前に……そうそう上手い上手い」
「えへへ」
「右レバーを左に倒すとバケットが手前に来る。掘削側ね。右に倒すとバケットが上がって中身が落ちる。レバーを向こう側に倒して地面に近付けておいて、左に倒すと土が掘れる。あ~あ~、一度バケット開放しないと掘れないってば」
「あそっか。地面固めちゃった」
「掘ったら右側に積んでみようか」
「えーと、どうするんだっけ」
「左レバーでキャブを旋回。右に倒すの。あああ! 右レバーを右に倒したら、折角掬った土が!」
「あれえ?」
「だから左レバーだってば」
「あははは」
「花ちゃん、どんくせー!」
「どんくさいゆーな。あははは」
「もう一回レバー握って」
「うん」
そしたらさ、ガンタがあたしのすぐ後ろに座って、後ろからあたしの手と一緒にレバーを握ったんだよ。それでさ、耳元で囁くんだよ。
「一緒にやればすぐに慣れるよ、花ちゃん」
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