第112話 過去形?
暫くして二人が仲良く戻って来たんだよ。なんか楽しそうなんだよ、あの神崎さんがずっと笑顔振りまいちゃってんだよ。
なにそれ、あたしなんか毎日一緒に住んでるのに、あんなに笑顔振りまいて貰ってないし。てか寧ろ真顔の時の方が多いし。あたしにはたまーーーにしか笑顔見せてくれないし。
そういえば城代主任、仮面舞踏会の話をした時、神崎さんに「大事な人を前にした時くらい仮面を外しなさい」って言ってたな。だからかな。彼女の前では凄い自然な笑顔だよ。二人が素敵過ぎて、近寄り難いオーラ出してるよ。
浅井さんには可哀想だけど「浅井パパ」は無いな、あるとすれば「神崎パパ」だな。とすると、城代主任はそのうちに神崎主任になっちゃったりするの? 単身赴任? 京丹波試験場では神崎冴子主任、本社では神崎秀一主任とかが存在しちゃったりして。これで神崎さんが京丹波に出張になったらみんな神崎主任って呼べないじゃん。そしたら冴子主任とか秀一主任になっちゃうの?
つーかその前に、あたしと神崎さんがまたワンセット出張になっても、神崎さんと一緒に住めないじゃん! あたしまたコンビニ弁当かー!
とかバカすぎる妄想を展開してたら、ガンタが来たんだよ。
「神崎さん。俺のクルマ乗って貰えませんか? 俺の運転のマズイとこ、教えて欲しいんすけど」
「僕が岩田君の運転にダメ出しするんですか?」
「はい。お願いします」
「……まあ、そうですね。僕は他人様にダメ出しできるほどのスキルは持っていませんが、GT-Rには乗ってみたかったんですよ」
「マジすか。じゃあ、お願いします!」
「はい、では行きましょうか」
ってちょっと。どこ行くのよ?
「やーん、モエも! 神崎さんと一緒がいい」
「園部さんはまた今度ご一緒させていただきましょう」
「えーほんと? モエ、もう死んでもいい~」
萌乃は園部さんだったんかいっ。とかそーゆー事は置いといて。二人で楽しげに青いGT-Rに乗ってどっか行っちゃったよ。てかガンタ、かっ飛ばしてるよ……。
見送るあたしの肩を誰かが叩くんだよ。
「花ちゃん」
「あ、親父さん」
「心配なんやろ?」
「……はい」
「わかったやろ、神崎君が花ちゃんを心配する気持ち」
こんな事でわかるなんてね。でもやっぱ心配だよ。てか何だろう、神崎さんも心配だし、ガンタも心配。二人ともあたしの大事な人。
「俺にはガンタくらいの息子が居ったんや」
「過去形?」
「事故で死んだ」
「え……」
「ガンタみたいなチーマーやったんやがな、調子こいて仲間と飛ばして崖から転落や。ちょうど今のガンタの歳やったわ」
それでガンタ拾ったの?
「ガンタは俺の息子には似てへん。ガンタの方が素直なええ子や。アホやけどな。せやけど、ガンタは神崎君の事は大事にしよる」
「心の兄貴って言ってました」
「ガンタはほんまに花ちゃんの事、大好きやからなぁ」
「なんであたしなんだろ? こんなデブの行き遅れより可愛い子いっぱいいるのに」
「あいつは女を見る目ぇがあるんや」
じゃあ、ますます有り得ねー!
「おやっさん、あたしを高く買いすぎですよ~」
「俺は花ちゃん欲しいがな」
「え?」
「花ちゃん、本社に戻らんといて欲しい思うわ」
「あたしだってここにずっと居たいですよ。本社よりこっちの方がずっと仕事楽しいし、やりがいもあるし……それにみんなと一緒に仕事したいです」
「そうか。それが聞けただけでも今日は収獲があったちゅーもんや」
おやっさん、社交辞令でも嬉しいよ。なんかあたし泣きそうだよ。
「ガンタも今頃は神崎君と兄弟のお喋りでもしとるんやろか」
「そうかも……」
「あんまり神崎君に心配かけたらアカンで」
「う~ん、そうなんですけど。神崎さんの心配性って度を超えてますよ?」
「そりゃ、花ちゃんの事となれば心配にもなるやろ」
「そんなにあたしって手が掛かりますかねぇ」
「そんなんとちゃうがな。花ちゃんほんまに鈍いなぁ」
って言った矢先にもう帰って来たんだよ、青いGT-R。さっきより凄まじいスピードで戻って来て、目の前でスピンターン決めてピタッと停止したんだよ。それ見て親父さんが笑ってんだよ。
「ガンタどないしたんや。神崎君にもうあそこまで仕込まれたんか」
「あんな事できんの? フツーの人が?」
「まあ、ガンタも筋は悪ないからなぁ。先生が優秀やとこんなに変わるもんなんやなぁ」
って言ってたのにさっ。降りてきた二人見て唖然だよ。
「神崎さんじゃん!」
そう、運転してたのは神崎さんだったんだよ。
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