第111話 田舎のお婆ちゃん
それから30分くらいして戻って来たんだよ。神崎さん。手には何かがいっぱい詰まったビニール袋持って。
「お帰り神崎君、どこ行ってたの?」
「ちょっとその辺の山の中を散歩して来ました」
「何持ってるの?」
なんか神崎さん、不敵な笑いしてるよ。
「それ、アレやな」
「親父さんわかりますか?」
「ウドやろ。タラの芽もあるな。ワラビもあったんか」
「ええ、いろいろありました。大収穫です」
新聞紙に袋の中身を広げたら……何これ? な葉っぱとか何かの茎とか訳の分からんもんがドサッと出て来たんだよ。ヨッちゃんたちも集まって来たんだよ。
「なんやこれ?」
「この白っぽい茎がウドです。独活の大木と言うでしょう? これはこんな若い芽のうちが美味しいんですよ。白い部分は灰汁抜きすれば刺身で食べられますし、もうちょっと上の青い部分は油炒めが合います。葉っぱは天ぷらにすると美味しいんです」
「へ~~~~!」
って全員で合唱状態だよ。おやっさんだけがわかってるっぽいんだよ。
「こちらはタラの芽。問答無用で天ぷらですね。独特のえぐみがあってお酒が進みます。こちらは皆さんご存知のワラビですよ。欲しい方どうぞ。こんなに食べきれませんから」
「なななーんと、meには料理はできひんのよね」
「俺もっす」
「あたしもどうにもでけへんわ」
「私は少し貰って行こうかしら」
「うちはおかあちゃんもおばあちゃんも居てるから、ワラビ貰うてもええ?」
「モエも」
って感じで、結局おやっさんがウドを少し、城代主任と沙紀と萌乃がワラビを少しずつ持って行くことにしたんだな。
「神崎さん、本気出すってこれの事だったの?」
「ええ、もっと皆さん持って帰ると思っていたので、これから本気出す予定だったんですが。これだけで十分ですね。ワラビは帰ってから塩漬けにしましょう」
「塩漬けって……なんか主婦っぽいね。寧ろ田舎のお婆ちゃんか」
と、そこに城代主任が割り込んで来たんだよ。
「ねえ、神崎君」
「はい」
「ワラビってどんな風に生えてるのか見てみたいんだけど。これ採ったところに案内して貰えないかしら」
「いいですよ。まだたくさん生えてましたから、城代主任も採ってみますか? 軍手ならここにもう一双ありますから」
「そうなの? じゃ、お言葉に甘えようかしら」
……って。楽しそうに二人仲良く肩を並べて山の中に消えて行っちゃったんだよ。しかもさ、うっとりするくらいお似合いなんだよ。
「花ちゃん」
「あ、浅井さん……」
「冴子ちゃんに持ってかれてもーたな」
「へ?」
「meも神崎君に持ってかれてもーたわ」
「は?」
「coolでsmartな神崎君と、知的でstylishな冴子ちゃん。似合いすぎやんなぁ」
「そうですねぇ」
「おっかしいなぁ。神崎君は花ちゃん狙いやと思うとったんやけどね」
「んなわけないじゃないですか」
「このテの話でmeが外した事はever、never、無かってんけど?」
「じゃ、今回が初めてですね~」
「なななーんと。初体験だぜbaby」
「浅井パパ、大丈夫ですか? なんかショックのあまり壊れちゃったりしてません?」
「浅井パパ言わんといて、ビミョーにbroken heartやねんから。花ちゃんもやろ?」
「いや、別に」
「あそ」
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