第110話 死ぬほど似合わねー!

 そこで浅井さんが急に立ち上がってみんなに声をかけたんだよ。


「Everyone 聞いてくれるかな~? ここでbigな報告があんねんで~」

「何々~?」

「なななーんと、神崎君とMeたちのFB80が販促本部を動かしちゃったぜ~」

「Meたちって……Weじゃね?」

「ヨッちゃん、be quietだぜ。なななーんとコンマ8グレードマシン、ぜーんぶハイブリッド化構想が立ちあがってもーたんやで~」


 どーにかならんかこのいい加減な英語と関西弁のハイブリッド。


「まだあるのよ。びっくりするような報告。なんと今回のFB80から車体カラーはピンクで統一! その名も山田ピンクダイヤモンド」

「なんですかそれー!」

「私が今名づけてみた」


 城代主任てそーゆーキャラだったか? てかセンス悪いぞ城代主任。もしかしてもう酔ってるか?


「現在、色の魔術師・神崎君が何種類ものピンクで絶賛調整中!」

「城代主任、色の魔術師とかピンクとか、なんか神崎さんとんでもないエロ男に聞こえんねんけど」

「ヨッちゃん、そこもbe quietだぜ」

「え~、モエ、神崎さんにならエロく口説かれてもええよ~」

「何言うてんの、ウチやったら寧ろエロく口説かれたいし。てか誘うし」

「あんたらアホちゃう? あたしならこっちからエロく口説くっ! そして確実に落とすっ!」


 てかあんたたち、神崎さんのエロい口説き方って想像つくんかい。……と心の中でツッコんだ瞬間、思い出しちゃったんだよ! あたしの手首を掴んだ彼の大きな手、彼の重み、あの唇を掠めた感触。うあああああ、ここで思い出すか花子ぉぉぉ! 顔から火が! なんだよ、なんであそこで止めるかなぁ、いっそあの時チューしてくれてたらここまで悶々としないっつのにっ!


「花ちゃん、どうかしたんすか?」

「えっ!? いや! 何も!」

「俺も今日は花ちゃん口説きまくっていいすか?」

「岩田君が山田さんを口説くんでしたら、それも参考にさせていただきます。こちらに来るまで浅井さんの口説きテクを勉強させていただきましたので」

「マジすか。神崎さん、浅井さんのテクで花ちゃん口説いてみてくれませんか?」

「いいんですか? では失礼します」


 つって、前髪を掻き上げて形から入ってるよ! しかもその仕草が死ぬほど似合わねー! それ以前に前髪浅井さんほど長くねーよ。てーかこれだけで既にみんなツボに入ってるよ。なのに、本人大真面目だよ。


「ねぇ山田さん、今度meのクルマでドライブしませんか? meのクルマは黒のレガシィツーリングワゴンだぜ。ちょっと室内が広いからyouの唇をgetするには難しいんですけどねbaby。……とこんな感じでしょうか」


 全員悶絶してるよ。どーすんだ神崎。萌乃が心肺停止だよ。人工呼吸してやれよ。そんな事したら即死か。てか、あたしゃドン引きだよ。

 つーかそこ「山田さん」じゃなくて「花ちゃん」てゆーとこだろっ。どうしてそこで「しませんか」って丁寧語になっちゃうんだよ。わけわかんねーな。


 それから暫く飲んで食って騒いで盛り上がって、みんなで大いに楽しんだ訳なんだよ。FB80チーム、メッチャ仲いいよ。本社では有り得ないよ。なんか感慨に耽ってたりしてたらさ、突然公儀隠密が音も立てずにあたしのところにやって来て耳元で囁いたんだよ。


「そろそろ本気を出させていただきます。僕の姿が見えなくても探さないでくださいね」



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