第107話 八海山
「本当に今日は飲まないんですか」
「うん。また二日酔いになったら怖いし」
「先週のは日本酒が合わなかったんでしょう?」
「うん。だけど、明日バーベキューだから今日はやめとく。神崎さんだけ飲んでいいよ。あたしプーアル茶飲むから」
「そうですか。では僕だけ失礼します」
そうなんだよ。今日は木曜日だけどさ、明日からGWでお休みだから、神崎さんの『ご褒美』の日なんだよ。
今日の神崎さんのお酒は先週と違うみたいなんだよ。
「それ、久保田じゃないね」
「ええ、八海山です。これも新潟のお酒ですね。僕は久保田と八海山が特に好きなんですよ」
「ふーん、そーゆー山があるの?」
「ええ、新潟県の南魚沼ですね。コシヒカリで有名なあの辺です」
「ね、これ……お酒のつまみにしてはヘルシーじゃない?」
「勿論です。僕は本気ですよ。あなたのダイエット」
「あ、ありがと」
あたし以上に気合入ってるよ。
「山田さんを綺麗に変身させて、二度とカバなどと思えないようにしてあげます」
「少しは可愛くなるかな?」
「絶対に可愛くなりますよ! 今も可愛いですが。……でもそれもちょっと心配だな。少し手を抜くべきかな……」
後半モゾモゾ言ってて聞こえねーし!
「あのチアシードってやつ、効くね。先にあれ少し食べとくとお腹いっぱいな感じだもん。ちょっとしか食べなくていいやって思っちゃう。って言っても神崎さんの1食分くらいは食べるけど」
「ええ、それでいいんですよ。量が減れば胃が小さくなってきますから。昨日のお弁当の後のデザート、結構効いたでしょう?」
「うん、おからのケーキ、美味しかったよ。いつまでもお腹いっぱいだった」
そんな話をしながら、神崎さんは八海山? をチビチビ飲んでは岩塩を削ってる。なんでこれで酔わないんだよ、この人!
で、あたしは普通にご飯食べて、その後神崎さんの宅飲みに付き合ってるの。プーアル茶で! ここ大切!
先週のゴージャスな『酒の肴』と違って、今日はシンプル。だってあたしが飲まないんだもん。神崎さんはどうせ岩塩だし。でも、プーアル茶だけでは口寂しいだろうって神崎さんがまたおから蒸しケーキ作ってくれたんだ。あと、紅茶ゼリーも。これはゼラチンじゃなくてアガーって言うヤツで作ってるんだって。何だかよくわかんないけど、寒天みたいなもんなんだって。
それとこれね! ポテトチップス。油で揚げてないの。レンジで作るんだって。ジャガイモだけじゃないんだよ。サツマイモとニンジンとレンコンとカボチャ。これが美味しいんだよ。あたしはこれをつまみながらプーアル茶飲んでるんだよ。
「我々は出張中なので、バーベキューの準備は一切しなくていいと言われましたが……山田さんも言われましたか?」
「うん。お客さん状態でいいよって、ヨッちゃんが」
「とにかく城代主任と浅井さんさえ送り迎えすればいいと聞いてます」
「神崎さんが浅井さんの口説きテクをマスターするとかって話を聞いたけど」
「なっ、何故それを!」
「え……ほんとだったの?」
「あ、いえ、浅井さんのテクニックを聞くというだけで僕は使いませんから」
「だよねー。神崎さんは真っ向勝負って感じだもんね」
「山田さんは……」
「ん?」
「浅井さんみたいに気障に接するのと岩田君みたいに正面から行くのと、どちらがお好みなんですか?」
「そんなの……その人によって違うよ。浅井さんがガンタみたいにマジになったらキモいし、ガンタが気障っちい台詞吐いたら笑うでしょ?」
「それもそうですね」
「神崎さんだったら、口説く相手を論破しそうだよね。あははは」
「論破……そんなイメージなんですね、僕は」
「うん」
あれ? 神崎さん、考え込んじゃった?
「あ、ごめん。なんか気に障った?」
「いえ、そんな事はありませんよ。全く問題ありません」
「ならいいけど」
「明日……僕、本気出していいですか?」
「え? 本気?」
「ええ、ちょっとマジにならせて貰います」
「マジって……何すんの?」
「ちょっと」
な……何するんだ神崎?
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