第104話 問題Nothing

 そんな事考えた事無かったよ。そんな事あるのかな?


「今朝浅井さんから聞いたんですが、コンマ8マシンを全部ハイブリッドに移行するプロジェクトが構想として持ち上がったようです。FB80の成果ですよ」

「うん、ヨッちゃんから聞いた」

「だとすれば、現在のコンマ8マシンをハイブリッドに移行する際に確実にここ京丹波に必要な人間が二人居ると思いませんか?」

「え……それって……」

「ええ、主担当の僕とソフト開発の山田さんですよ」

「え? ちょっと待って? 神崎さん、機械設計でしょ? 車体設計とかしてる人なんじゃないの?」

「僕は主担当ですから、車体設計も当然ですが、コントローラ、エンジン、油圧ポンプ、バルブ系などのコンポーネントとのインタフェイスから製造管理まで全部任されてますよ。ですから当然、試験から検査までFB80に関しては僕の目が入ります」

「だから溶接のところに居たの?」

「そうですが……今までご存知では無かったのですか?」

「それって全部知ってないとできない仕事じゃん。てかそれあたしの上司じゃん!」

「まあ、位置的には。あまり関係ありませんが」

「神崎さんて、実は凄い人だったんだね」

「今はそういう話ではなくてですね。ハイブリッド化が進めば、僕たちはまたここに飛ばされるかも知れないよ、という事なんですが」

「いいじゃん。なんか問題ある? もし一緒に出張になったら、ウィークリーでもまた一緒に住もうよ。あたし洗濯物干すから」


 って言ったらさ、神崎さんポカーンとしてんの。そんな変な事言ったかな?


「……そんなに簡単に結論を出して良いんですか?」

「え? だって効率的じゃん。バラバラに住むより水道も電気も洗剤も少なくて済むじゃん? どうせ今だって一緒に居るんだしさ」

「あ、まあ、そうですが」

「もしそうなったら、また一緒に住もうね」

「あ……はい……」

「あれ? なんか困る? ああ、もしかしてあたしと一緒に居たら彼女とかできた時困るから?」

「いえっ、そんな事はありません」


 そんな大急ぎで力強く否定しなくていいし。どーせ狙い目は城代主任だろうから、もう身内みたいなもんだし。問題Nothingでしょ。


「寧ろ、山田さんこそこのまま僕と一緒に居るのは問題あるんじゃないですか? 例えば……そうですね、岩田君とお出かけの度に僕はいろいろ心配になって口煩い親父のような事を言ってしまうと思うんですが」

「ガンタは神崎さんの事『心の兄貴』って言ってたじゃん。それに神崎さんが口煩く言ってくれた方が安心だし。もう親父っつーかお兄ちゃんみたいなもんだし」

「そうですか……岩田君との仲を否定はしないのですね」

「へ? 何?」

「いえ。何でもありません。何でもない」


 今何言ったんだ? モゾモゾ言って聞こえなかったけど。ま、いっか。


「岩田君にここの地図を渡しておきましたよ。心配しないでくださいと仰ってました。運転もそうですがそれ以外にも僕の心配するような事は一切無いと」

「……あ……そう」


 ってやだ、また思い出しちゃった。もう、ドキドキするじゃん。

 でも……でもさ。

 あの時の神崎さんを思い出してドキドキしてる訳じゃないんだよ。もっと恐ろしい事実に気づいたからなんだよ。


 キスくらいしてくれたら良かったのにって一瞬でも思った自分にドキドキしたんだよ。それってあたし、どーなん?



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