第103話 隕石が

 夜。

 確かに神崎さんは自分の言った事はきちんとやる人だよ。だけどさ、まさかストレッチマットまで持って来てるとは思わなかったよ。

 でさ、ここにうつ伏せに寝て、肘着いて、膝も着いて、身体を持ち上げて一直線に! なんて言われたんだけどさ、できねーんだよ。身体上がんねーんだよ。いや、一瞬上がるよ? でも3秒が長いんだよ。これを30秒もやれってか? てーか神崎さん、あの揺れるブランコでこれを2分もやってたんか? 有り得ない!

 その横で神崎さんはジャンピングスクワットとか腕立て伏せとかずっとやってんだよ。勿論プランクもやってんだよ? 神崎さんはとーぜん膝なんか着かないよ。横プランクとかもやってんだよ。メチャクチャだよ。そんなに鍛えなくたって自然災害はしょっちゅう起こらないから。

 って思ったことそのまんま言ってみた。ら! 返って来た答えがこれだよ。


「山田さん、自然災害というのはいつどのような形で起こるかわからないものです。もしも今、京丹波に隕石が落ちて来たらどうなさいます。あなたは確実に死にますよ。僕が守って差し上げるしかないでしょう?」

「いや、隕石が落ちて来たら神崎さんも死ぬって」

「……。それもそうですね。では設定を変えましょう。津波が来たらどうなさいますか?」

「京丹波の山奥に?」

「……。来ませんね。では設定を変えましょう。竜巻が襲ってきたら……山奥ですから竜巻は発達しませんね」

「でしょ?」

「ええ、ですがここに住んでいるのはあと2週間強です。東京に戻れば地震でも津波でも竜巻でも簡単に死ねます」

「あたしんちチトカラだし。仙川じゃ津波来ないし」

「山田さんは千歳烏山でしたね。僕のところは一発でやられます」

「どこよ」

「西葛西です。東西線の」

「え? 葛西臨海公園とかすぐ近くじゃん」

「ええ、毎晩あの辺まで走ってますから。日々の買い物はお近くのマルエツです」

「そんなこと聞いてないし」

「そうですね。ですが津波は来るんですよ。すぐそこ東京湾ですし、荒川と旧江戸川に挟まれてますし、新左近川親水公園の近くなので、もうどこからでも津波さんいらっしゃ~いです。できれば僕も世田谷辺りに住みたいですね」

「……何の話してたんだっけ?」

「自然災害です」

「あ、そうだった」

「山田さん」

「何?」

「ここに永住したくありませんか?」

「ほえ?」


 何を言い出すんだ? しかもプランクの姿勢のまま喋ってんだよこれ。


「僕はここがいたく気に入ってしまいました。東京は僕には向いていません。自然の中で伸び伸びとできるこの環境が心地いいんです。子供たちもその方がいいでしょうし」

「子供たち?」

「子供は多い方がいいですから」


 城代主任とこ子供一人だから、これから更に子作りに励むって事?


「でもタヌキ出るよ?」

「タヌキやヘビなら可愛いもんじゃないですか。Gは東京の方が多いんですよ」


 そこかよ……。


「出来る事なら出張期間が過ぎても、このままここで山田さんと一緒に暮らしたいと心底思っています」

「あのさ、前後の話を無視してそこだけ聞くとプロポーズっぽくない?」

「そうですね、そんな風にも聞こえますね。嫌ですか? 言い直した方がいいでしょうか。僕的には結構ツボにドストライクだったんですが」

「いや、別にいいけど」


 これ、他の人が聞いたら絶対勘違いするって。つーかあたし萌乃や沙紀に撲殺されるから!


「山田さんは千歳烏山のお家は気に入ってらっしゃるんですか?」

「え……別に……」

「もし、もしもですよ。ここに異動になったらどうなさいます?」

「勿論ここに住むよ。本社に拘ってないもん。でも一人だったらもうちょっと買い物便利なところに住むかな。クルマ無いし」

「もしもですが、不可抗力で僕と一緒に異動になってしまったら……どうなさいますか?」


 ……え?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る