第102話 仮面外しなさい

 でさ、今日は雨なもんだからさ。神崎さんと城代主任は外でランチできない訳なんだよ。ついでに言うとさ、あたしとガンタもテラス席でランチできないんだよ。

 だけどなんとなんと、ガンタがお弁当を作って来たんだよ。これにはあたしゃー驚いたね。そんでガンタがお昼にお弁当を携えて設計フロアまで来たんだよ。


「花ちゃん、お弁当持って来たんすよ。今日は神崎さんも外に出られないと思ったんで来ちゃいました。城代主任も一緒にお弁当食べれたらと思って」

「あら、ガンタ君自分でお弁当作ったの? うふふ、神崎君の影響って凄いわね。じゃ、こっちの作業机で一緒に食べましょ」

「神崎さんはどこ行ったすか?」

「すぐ来るわよ。彼ったらほんとにA型よね~」


 って言ってたら、神崎さんが台拭きを手にやって来たんだよ。


「山田さん、岩田君、どうなさったんですか?」

「俺、今日お弁当持って来たんで。雨だからきっと神崎さんと城代主任ここだろうと思って来たんすよ」

「ああ、そうでしたか」


 って言いながら、手際良く作業机を綺麗に拭いてるんだよ。


「神崎さんてA型だったの?」

「は?」

「城代主任が……」

「やーね、適当に言ったのよ。いかにもそんな感じするじゃない?」

「僕ならAB型ですよ」

「……変人」

「山田さん、何か仰いましたか?」

「何にも言ってないです」

「山田さんはO型ですね」

「何でわかったの?」

「漢字で書けますから。大型……」

「死にてーか、神崎」

「どうぞ岩田君、座ってください。お弁当いただきましょうか」

「華麗にスルーかよ」

「今日はデザートをお持ちしてるんです、みんなで食べましょう」


 え? そんなもの作ってた? 聞いてないよ?


「今日のお弁当は何かしら~。神崎君のお弁当が楽しみなのよね~」

「大したものじゃないですよ」

「すげー、今日の炊き込みご飯も旨そっすね。牛蒡と蒟蒻とキノコがたくさん入ってる……何すかそれ」

「油揚げですよ」

「竹輪に入れてあるのはなんすか?」

「黄色はチーズ、緑はキュウリ、ピンクはハムでしょ?」

「ええ、そうです。岩田君、今日は焼きそばですか。肉がたくさん入って男子の弁当という感じですね」

「他に何入れていいかわかんなくて玉葱と肉だけなんすよ」

「人参やピーマン、モヤシを入れると美味しいですよ」

「紅生姜忘れてるわよ、ガンちゃん」


 なんか3人楽しそうだよ。お弁当でこんなに盛り上がってるよ。


「神崎さんていつも城代主任とお弁当の話で盛り上がってたの?」

「そういう訳でもありません。いろいろ……ですね?」

「そうね。映画の話とか、本の話、それから音楽の話もよくするわよね」

「昨日はチャイコフスキーが作曲家になる夢を諦めずにいてくれて良かったという話で盛り上がりましたね」

「そうよね。ピアノ協奏曲の1番なんて、なんであんなに長い前奏にしたのか、とかね?」

「前奏の方が有名ですからね。僕はメインテーマの方が好きなんですが、どうも知名度が低いので話してもわかって貰えない事が多くて……」

「俺の妹はカバレフスキーが好きだって言ってましたよ」

「岩田君の妹さんは音楽を何かなさってるんですか?」

「吹奏楽部で。今高校3年なんすよ」


 あたし以外みんなクラシック詳しいよ!


「昨日は山田さんにもハチャトゥリアンを聴いていただいたんですよ」

「あら、花ちゃんも遂に神崎君に感化されたの?」

「いえ、全然わかんなくて。でも昨日聴いたのはすっごいカッコ良かったです」


 ってそこまで言って、その後の事を思い出しちゃったんだよ! いやああああ、どうしよう! ここで思い出すなんてサイテー!


「ハチャトゥリアンって俺、剣の舞しか知らないすよ」

「昨夜は仮面舞踏会でした」


 そしたらさ。城代主任がやれやれって顔で言ったんだよ。


「仮面舞踏会ねぇ……神崎君もいつまでも仮面をつけていないで、いい加減外しなさいな。せめて大事な人を前にした時くらい。ねぇ、花ちゃん?」

「ほえ? はぁ……そうですねぇ?」


 あたしは何だかよくわかんないまま、テキトーに返事したんだよ。これって、城代主任が神崎さんに「私の前では本音言ってよ」って言ってるんじゃないの? もー、そんな言い方したんじゃこの唐変木の伊賀忍者には伝わんないのに。城代主任、ぜんぜん神崎さんを判ってないんだからぁ……。


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