第95話 手料理
なんかさ、これ、日課になってるっつーか、なんつーか。今日もガンタと例のテーブルでランチなんだよ。入り口近くのテーブルでは恵美と沙紀と萌乃が3人でランチしてんだよ。
毎日ここに通ってて気づいたんだけど、Aランチは割と軽め、Bランチはそこそこ、Cランチは肉体労働系男子がガッツリ食べる系なんだよね。ご飯はおかわりし放題で、大食いさんに親切な食堂と言って良さそう。普通に考えたら、あたしの為にあると言っても過言ではない食堂なんだよ。だが、今のあたしはダイエット中なわけなんだよ。
ガンタのランチを見る限りでは、本日のCランチは豪華『酢豚・麻婆豆腐・焼売』中華3点セットの趣で、今ならもれなく高枝切りバサミが付いて来て、お値段据え置き便利な分割払いもございます! な感じなんだよ。あたしならこれでご飯4杯は食べるね。きっぱり。
「今日も愛情詰まってますね。なんか俺、花ちゃんと神崎さんの間には割り込めそうにないっすよ」
「え、そ、そんなんじゃないから、あたしたち」
「その具だくさんのオムレツ美味しそうっすね」
「うん、すっごい美味しい。ほっぺた落ちる」
「朝からそれだけの具を刻むだけでも大変なのに」
「前の晩から仕込んでたよ。夜のうちに下ごしらえしてるみたい」
「なんでそれ知ってるんすか?」
「えっ! あっ! ええと……晩御飯食べる時、それ、もう準備してあったから」
やべーやべー。あたしは誘導尋問に引っかかりやすいタイプだな。
「花ちゃんと神崎さんて、朝ご飯も晩ご飯も一緒なんすよね。なんつーか、家族っぽいすよね」
「うん、家族だね。お兄ちゃんて感じだよ。あたしのお兄ちゃんにしちゃスマートだしイケメン過ぎるけどさ」
「花ちゃんだって可愛いすよ」
「ありがと」
「でもお昼だけは花ちゃんは俺が独占しますから」
「独占するほどの価値も無いっしょ。うあー、この切り干し大根メチャクチャ美味しい」
「あ、そう言えば、バーベキュー、行けるらしいすね」
「うん、金曜日ね」
「城代主任も親父さんも行けるらしいすよ」
「すごーい、出席率100%じゃん、流石FB80チーム!」
「俺のクルマ、二人しか乗れないんで、親父さん乗っけてくことになってるんすよ。それで恵美ちゃんのクルマに沙紀ちゃんと萌乃ちゃんとヨッちゃんが乗って、浅井さんと城代主任と花ちゃんは神崎さんのクルマでって決まったんすよ。神崎さん二つ返事でOKしてくれて」
「やっだ、それじゃクルマん中でずーっと浅井さん、城代主任を口説いてんじゃないの? わ、この鶏ささみの梅肉和えメチャうま」
「たぶんそうすね。神崎さんが浅井さんの口説きテクを参考にするって笑ってたんすよ」
「神崎さんが浅井さんのキザっちぃテクを参考にしたって似合わないっての」
「俺もそう思うし。てゆーか、神崎さんがあの浅井テクで一体誰を口説くんだか、そっちが興味津津なんすけど」
「そりゃ城代主任でしょー」
「浅井さんと神崎さんに同じ口説き方されたら、城代主任、神崎さん取るに決まってるじゃないすか」
「でもそれなら神崎さん、いつも通りに口説いた方がいいと思うけど。わざわざ浅井テク駆使しなくたって」
「それもそーすよね。てか神崎さんて、どうやって口説くんすかね?」
「あははは有り得ねー。てか似合わねー。あの人ストレートに言いそうじゃない? 如何に自分が相手に惚れてるかを論理的に解説しそう」
「花ちゃん、口説かれたりしてないんすか?」
「んなわけないじゃん」
「花ちゃん、気づいてないだけとか言わないすよね?」
「ないない!」
そんな事を言われてるとは露知らず、神崎さんと城代主任はやっぱりチューリップ前のウッドテーブルでお弁当食べてる。あの二人も毎日の日課になってるみたい。でもなんか……いい雰囲気だな、あの二人。あれじゃ浅井さんの割り込む余地なんか全然無いよ。
「あの、花ちゃん、バーベキューの翌日って空いてますか?」
「え? なんで?」
「俺の手料理食べて欲しくて。神崎さんみたいに上手じゃないけど、花ちゃんに食べて欲しいなって思ったんで」
「あ……うん……ありがと」
「いいんすか? なら俺、迎えに行きますから! あ、でも神崎さんちわかっちゃうからダメか、どっかで待ち合わせして近くまで行きますよ、それまでいっぱい練習しとくんで」
「うん……」
ガンタは凄い喜んでるけど……何故か神崎さんに叱られるよーな気がして、ちょっとなんかモヤモヤする物が残っちゃった。
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