第89話 ハーフパンツ
「今夜はちょっとカロリー控えめですよ。昨日お餅をたくさん食べてしまいましたからね」
う……それを思い出させるな。
「お昼もかなり嵩増ししてたよね。ガンタがすっごいチェックしてたよ」
「そうでしたか。ところで如何です? お風呂に入る前に飲んで……というか食べていただいたチアシードは。結構お腹に来ましたか?」
「うん、結構キテるよ」
今日は帰ってくるなりチアシードを冷蔵庫から出してきた神崎さんが「これを食べてすぐに入浴してください」って言い出したんだよ。朝のうちにふやかしておいたチアシードをヨーグルトとハチミツで味付けしてあたしの前にズンっと出してさ、食べてから入浴すればお風呂上がりにちょうどいい感じに満腹感が得られるはずだからって。
それでお風呂から上がってみたら、チョー低カロリーご飯が並んでるの。しかも美味しそうなの。
「ダイエットですから当然カロリーは低く設定してますが、ちゃんと栄養も取らなければいけませんので満遍無く食べてください」
「はーい」
と言って目の前のご飯を眺めると。これは? 何?
「ね、ご飯に何か入ってない?」
「大根ですよ。嵩増しできますし食物繊維も取れます。大根の葉っぱは御御御付に入れましたよ」
「これはお豆腐のステーキ?」
「ええ、木綿豆腐を焼きました。大葉と大根おろしと醤油でさっぱりどうぞ」
「うは。めっひゃおいひー」
熱くて喋れないし……。
「よく噛んで食べてくださいね。その方が満腹になりますから」
「こっちは、鮭のホイル焼きだね。うわーきのこたっぷり」
「温野菜のサラダ、たくさん作りましたからね。これ好きだって山田さんが仰ってましたから」
「うん、神崎さんのみかんドレッシングが最高に合うんだよ~」
「みかんドレッシング、気に入っていただけましたか。それは良かった」
「なんかさ……」
「はい?」
「ここまであたしの事考えてくれた人って、親以外に居たかな……。親もここまでしてくれなかったと思うんだよね」
「……僕にとって料理は趣味のようなものですから」
「神崎さんさ」
「はい」
「ありがと」
「こちらこそありがとうございます。毎日の料理がこんなに楽しいのは久しぶりです」
「あたしもご飯が毎日こんなに楽しいの、初めてかも」
「そう言っていただけると嬉しいですよ」
なんか嬉しすぎてまた泣きそうになってる。ヤバい。なんか最近泣いてばっかだ。
「ところで山田さん、どうして自転車を?」
「あ……」
そうだ。あたし今日、レンタル屋に頑丈なマウンテンバイクを追加で頼んでおいたんだ。今レガシィの横に停めてある。会社帰りに神崎さんにハーパン買いに行くのも付き合わせたんだ。
「あのね……笑わないでよ?」
「笑いませんよ」
「神崎さんの夜のランニング、一緒に行きたいなって思って」
「は?」
「あの、あたし運動不足だから。昨日天橋立行って、自転車乗ってすんごく気持ち良かったからさ、だけどあたしがこの体重で神崎さんと一緒に走ったら膝傷めちゃうから、一緒に自転車でついて行こうかなって」
「それでハーフパンツを買いに行ったんですか?」
「うん……」
うー、そんな顔であたしを見るなー。恥ずかしいじゃん。
「山田さん」
「ん?」
「あなたは時々抱きしめたくなるほど可愛らしいですね」
「えっ?」
ちょ……何、急に。え、やだ、絶対あたし今、赤くなってるし! 顔熱いし!
てゆーか神崎さん、顔色一つ変えずにそーゆーこと言うな。
「いいですよ。一緒に走りに行きましょう」
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