第87話 仇は討った
「んんん……あ……山田さん……はっっ! 山田さんっ!」
ガバッと神崎さんが跳ね起きた。
「ヤツは! Gはどこへ行きました!?」
「仕留めたから」
「……はぁ、そうでしたか。ん? ここはどこですか?」
「医務室」
「は? 医務室? そんなものがあるんですか」
「試験場だもん。そりゃあるよ」
「ああ、そうでしたね。ここは本社じゃなかった……。え? なんで医務室?」
「神崎さんがGのダイレクトアタックを喰らって失神したから」
「うわああああああああ!」
神崎さん???
驚く間もなく、すぐ側にあった洗面台で狂ったように顔を洗い始めたんだよ。てかそれ……薬用石鹸ってヤツだし。殺菌作用ハンパ無いし。それで洗うのか、顔を。ほっといたらオキシドールで顔洗いそうだよ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「大丈夫?」
「僕の顔のどこにGはアタックしたんですか!」
てゆーか、あんたが顔拭いてるそれ、キムワイプだから。
「あ~、ぶつかってないかも。真っ直ぐ神崎さんめがけて飛んでったけど」
「……早くに失神して良かった。あと0.01秒遅れていたら失禁していたかもしれません」
早くにってあんた、100分の1秒レベルじゃん。
「ちゃんと仇は討っておいたから」
「ありがとうございます。……あっ! 親父さん!」
「大丈夫。倒れる寸前にガンタが神崎さんを支えて、そのままここに連れて来てくれたんだ。ガンタから親父さんに言っといてくれるって」
「岩田君が居て助かりました」
「神崎さん見た目より重いって言ってたよ。スマートだから軽いと思ったら細マッチョだって」
「お恥ずかしい限りです。ああ、仕事に戻らないと」
「もうちょっと休んでたら?」
「いえ、もう大丈夫です。……あの……山田さん、ずっとここに居て下さったんですか?」
「うん。心配で」
神崎さん、何か言いたげにあたしをじっと見つめて、それから急に視線を逸らして俯いちゃったんだよ。
「すみません。ご心配をおかけしました」
「あ、ううん、あたしが取り逃がしたからこうなっちゃったんだし。ごめんね、神崎さん」
「昨日……」
「ほえ?」
「あんなに偉そうな事を言ったのに、G如きでこのような失態をお見せするとは。全く頼りになりませんね」
「ううん、そんな事無いよ。パーフェクトすぎる人なんて気持ち悪いもん。アキレスだってドラえもんだって苦手なモノあるじゃん? 神崎さんにも苦手なモノがあるってわかって、なんか安心した」
「安心……ですか?」
「うん。だってサイボーグみたいに完璧だったんだもん。あたしがGから神崎さんを守ってあげる」
「……」
「大事な人を守ってあげられるのって、なんか嬉しいね。幸せだね」
そしたらさ、神崎さん急にハッとしたような顔したんだよ。
「……そうか。僕は……」
「ん?」
「僕が今、こんなに幸せなのは、そういう事なんですね」
「ほえ?」
「山田さん、ありがとうございます。大変な事に気づかせていただきました」
「は?」
「付き合せてすみませんでした、戻りましょう。FB80のメインパネルが僕たちを待ってます」
「あ、うん」
何だかよくわかんないけど、神崎さんの笑顔をまさかの会社で見られたからよしとしよう。
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