第84話 気になる

 なんか今日は調子狂う。昨日の晩あんなこと話したせいか、神崎さんと目を合わせるのがなんかちょっとなんて言うか……変に意識しちゃう。

 昨夜あの後、突然神崎さんが「知恵の餅、食べましょう」って言い出して、結局神崎さんも一緒になってお餅食べたんだよね。あたしがなんか涙止まんなくなっちゃってからずっと隣に居てくれて、お餅食べる時も横に座っててくれて。

 お餅食べながらこう言うんだよ「明日からまたダイエットメニューですよ。ちょっと強化しますから今のうちにしっかりお餅食べておいてくださいね」ってさ。笑っちゃってさ。神崎さんの気配りが嬉しくてさ。


 その神崎さんは、何事も無かったようにいつも通りのポーカーフェイスで仕事してる。あたしなんか余計なことばっかり考えちゃってまるでダメだ。ついつい神崎さんを目で追っては、慌てて目を逸らしてる。何やってんだか。


 てーかさ。よくよく考えたらさ、あたし昨日『彼氏いない歴10年』って白状したようなもんだよね? 一番綺麗な(筈の)20代をデブで彼氏いないまま通りすぎちゃってる訳だよね? おいおいおい花子それでいーのか! つーか、それを神崎さんに知られちゃった訳だよね? それってどーよ?

 だけど……そーゆー神崎さんはどうなのよ? 彼女居なさそうってか「居ない」って豪語してたから居ないんだろうけどさ、いつから居ないのよ? まさか彼女居ない歴=年齢? ってことは無いよね、あんだけイケメンだし、何でもできるし、気配り上手だし、女子力高いし……あああ、凹んで来るわ、自分に持ち合わせていないものを全て持ってる。地味に殺意湧くわ。

 でも、毒舌も相当だよ? ありゃー彼女できねーよ。彼女できても2日で別れるよ。そんな事無いか。あるか。ん~~~。


「どうしたの、花ちゃん。何かとんでもなく悩んでるようだけど」

「あ、城代主任。あ~~~、ええと、まあ、そうですねぇ、何でも無いです」

「そう……。困ってる事があったら相談乗るから。仕事以外の事でも」

「え? あ、はい。ありがとうございます」

「ね、メインパネルのエネルギーモニタ、良くなったわね。ピンクにしたのは良かったわ。花ちゃんらしくていい感じって親父さんも言ってたわよ」

「そうですかぁ、良かったぁ。アホかって言われたらどうしようかと思った」

「赤じゃキツイし、オレンジも見慣れちゃってる、黄色は注意を呼びかける時に使うから、ピンクは想定外だったのよね」

「……ピンクダイヤモンド」

「え? チューリップの?」

「急に思い出したんですよね。それで」


 城代主任、突然クスクス笑いだしたんだよ。あたし変な事言ったかな?


「……うふふふ、花ちゃん可愛い。なんだろなー、あたし花ちゃんて大好きなのよね。なーんか神崎君の気持ちわかるわぁ」

「ひえっ! かかか神崎さんですか?」

「どうしたの? 何慌ててるの?」

「いっ、いえっ、何も」

「昨日何かあった?」

「いえ、別に」

「なーんだ、彼にキスでもされたのかと思っちゃったわ」

「そっ、そんな訳ないじゃないですかっ! 鱚の天ぷら食べましたけど」

「うふふふ、私も食べたーい」


 えええ? 何なんだー? 城代主任、楽しそうに向こう行っちゃったよ? そこにちょうど神崎さんが入って来て、城代主任が何か話しかけてるんだよ。何なんだよー、気になるよー! ……って、こっち来るよー!


「山田さん、午後から親父さんが新しいメインパネルで試運転するらしいですよ。たった今組み込んで来たので、親父さんも待ちきれないようです。僕も動作確認の為に一緒に行く予定ですが、山田さんも一緒にご覧になりませんか?」

「はっ、はいっ! 行きますっ」

「……? どうされました? どこか具合でも? 昨日やはり寒かったですか?」

「あ、いや、そうじゃなくて」


 てかココで昨日の話しないでーーー!


「ねえ、今、城代主任に何か言われた?」

「別に。ランチを一緒にと誘われただけですが」

「あ、そう。ならいいけど」

「では午後一に試験場で」

「はい」


 ううう。いつもの仕事モードの神崎さんだよ。笑顔無いよ。昨日と別人だよ。

 でもさ、この後神崎さんの意外過ぎる一面を見ることになるんだよ。

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