第77話 からかってる?

 美味しいもの食べて少し休憩したら、また元気になっちゃったんだよ。天橋立に来たらやっぱ「股のぞき」しなくちゃなんないじゃん? 基本中の基本じゃん?


「神崎さん、あったよー」

「はいはい、待って下さい。元気ですね」

「だってー、天橋立だよ~? は~るばる、来たぜは~しだて~」

「ここに立って覗くんですね」

「ねえ、ひっくり返ると怖いから、神崎さん押さえてて」

「いいですよ」


 あたしが脚の間から顔出してると、神崎さんが肩を支えてくれてる。うん、やっぱりこの人だと安心できる。


「おおお~天にも昇る……ってかよくわかんない」

「僕も覗いてみましょう」


 神崎さんも脚の間から顔出してんだけどさ……脚長げーーー! これは反則。


「うーん、普通に見た方が絶景に見えますが」

「そーだよね、あはははは」

「あ、何かの像がありますよ」

「何これ、可愛い」

「かさぼう? ここのイメージキャラクターか何かでしょうか」

「頭デカくて可愛いね」

「山田さんにどことなく雰囲気が似てますね、コロンとした感じが」

「ここから麓まで落ちたいかな、神崎さん」

「今の発言は忘れて下さい」

「あ、ねーねー、あれ見て、展望台」

「行ってみましょうか」

「うん」


 やばい、楽しすぎる。手放しで楽しい。


「山田さん、高い所は平気ですか?」

「うん、絶叫系オールおっけ~」

「床板がシースルーですが」


 え゛……?


「ひょあ~、下の方まで見える~! ちょっとこれマジヤバい。いくらなんでもここ歩くの無理。え? ちょっと? 神崎さん行くの?」

「ええ、折角ですから」

「ちょっと、マジで? 怖くないの?」

「高所作業車やはしご車の開発もしましたし。何度も乗ってますから何ともありませんよ。あっちの方が派手に揺れますからね。山田さんも来ませんか?」

「あたしが行ったら底が抜けちゃうじゃん」

「同じ事でしょう? シースルーかそうでないかの違いでしかありませんから。大丈夫ですよ」

「えええ、ちょっ、ちょっ、ちょっと神崎さんこっち来て。一緒に行くから」

「山田さんは案外甘えんぼさんなんですね」

「甘……そ、そうかも」


 なんやかんやで神崎さんが戻ってきて、あたしの手を引いてくれるんだけど、どうもあたしはへっぴり腰になってて前に進めないんだな、これが。


「どうなさいました? 腰が引けてますよ」

「うう……足元が……うあああ……たっ、高い」


 大丈夫かな、あたしが乗ってもほんとに壊れないかな? ってあたしがこんなにドキドキしてんのに、なんであんたそんなに楽しそうなんだよ。


「タイタニックしませんか?」

「ほええっ? タイタニック? ってあれか? 無理! ムリムリムリ! この先端にあたしが立つって事でしょ? そこであたしが手を広げるって事でしょ?」

「そうですよ。ディカプリオさんほどカッコ良くなくて申し訳ありませんが」

「いや、神崎さんの方がイケてるから。……とかそーゆー問題じゃなくて、無理だから」

「そうですか、うーん、残念です」


 え、マジで残念がってるよ。


「どーせならカバじゃなくて可愛い女の子とやりなよ」

タイタニックしたかったんです」


 なんですと?


「え、そう……なの?」

「はい」


 うっ……その上目遣いやめろ。デカいくせにわざわざ俯いてまで上目遣いするのやめろ。


「じゃあ……頑張っちゃおうかな?」

「いえ、ご無理はなさらず」

「あ、ううん、そうじゃなくてさ。そう言われたら、あたしも神崎さんとタイタニックしてみたくなった」

「……」

「それに、神崎さんがいるから大丈夫だよ」


 神崎さんはニコッと笑って、何も言わずにもう一度あたしの手を引いたんだよ。一緒にシースルーの展望台の先まで歩いてさ、手すりから手を離したんだよ。そーっと。


「怖くないですか?」

「怖いけど、大丈夫。ちゃんとタイタニックみたいに支えててよ?」

「では失礼します」


 神崎さんがあたしのビア樽みたいなウエストにその大きな手を添えるんだよ。てかどこがウエストかわかるか? うん、そこだ、OK! 「うわ~すげーデブ」とか思ってるよきっと。今更そんなのどーだっていいよ。とにかくあたしはこの手を広げるんだー!


「ねえ、タイタニックになってる?」

「なってますなってます」


 神崎さんの声がめっちゃ嬉しそうだー! あたしはどーしてもその神崎さんの嬉しそうな顔ってのが見たいんだよ。そんでちょっと振り返ったんだよ。


「いえいえ、キスシーンまでは要求しませんから」

「ばっ、バカ言わないでよ! 神崎さんの声が楽しそうだったから、顔が見たかっただけだってば!」

「あ、そうでしたか。これは失礼しました」


 だけど、神崎さんの顔が全然「失礼しました」って顔じゃないんだよ。


「もしかして、からかってる?」

「ふふふ……」

「あーもう! 神崎さんのドS!」

「さて、戻りますか」

「あ、ちょっと、置いてかないでよ~!」


 思わず神崎さんの腕にしがみついちゃったんだよ。まるでコアラだよ。でけーコアラだな。だってー、神崎さんに置いてかれちゃ敵わないじゃん!

 なのにさ! 神崎さんてばすんごい楽しそうにしてんだよ。あたしゃ確信したよ。コイツ本当にドSだ。

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