第75話 不安?
それから30分後。あたしたちはリフト乗り場に居たんだよ。神社行って一通り眺めて、つっても小さい神社だからすぐに一周しちゃってさ。それですぐ近くにあるケーブルカー乗り場に歩いてきたわけよ。そしたら、ケーブルカーと並走してリフトも運航してんのよ。スキー場にあるような一人ずつ乗るリフトだよ。脚ぶらぶらするヤツ。そりゃーこっちに乗りたいに決まってんじゃん!
で、こっちに乗る事にして並んでてさ。今日は観光客多いから待ち時間もそこそこあんのよ。
「さっきの狛犬、屋根がかけてあったね。珍しいよね」
「ああ、あれは鎌倉時代の作らしいんですよ。国の重要文化財に指定されているんですが、酸性雨の影響による損耗から守るために屋根を付けたらしいですね」
「えー? 神崎さん、なんでそんなに詳しいの?」
「さっき、あの狛犬の前に説明が書いてあったのを読んだだけですが」
う……そんなものあったっけ?
「五色の座玉ももっとよく見たかったんですが、写真も撮らせて貰えませんでしたしね。残念です」
そんなもんあったか?
「あの五色も、赤、黄、青、白、黒の五色であることから、中国五行説に基づく陰陽の考え方であろうと想像できますね」
「あのー……アゼルバイジャン語、あたしわかんないから」
「は? 僕もアゼルバイジャン語はわかりませんが」
「あーなんでもない、あ、次だよ」
「山田さん、先に乗ってください」
「あたしが乗ってもリフトのワイヤ切れないかなぁ?」
「重量は大丈夫ですよ。それよりお尻が入るでしょうか?」
「永眠したい?」
「あ、乗ってください」
こいつ宅配便でイスラム過激派に送りつけてやる。
目の前では係員のオッチャンがリフトの椅子を押さえて待ってくれてる。
「はい、お姉ちゃんどうぞ。足、前に出してね」
「ありがと」
ずしっ。
「うわあ!」
「大丈夫だよ~、もっと大きい人も乗ってるからねぇ」
オッチャン、それフォローになってないし。てか、下、引きずりそうだし。腹立つことに、後ろでは神崎さんは涼しい顔で乗ってるし。
「ねえ、あたしんとこ、切れそうじゃない?」
「大丈夫ですよ」
「お尻、キツイよ~。抜けないかも」
「そんな訳ないでしょう」
足元は花壇があってお花がいっぱい咲いてる。チューリップとかシバザクラとかナデシコとか。あ、あれピンクダイヤモンドだ。会社にあったヤツ。
嬉しくなって神崎さんの方を振り返ってチューリップを指さすと、神崎さんすぐに気付いてうんうんって頷いてる。うわ……なんか、神崎さんずっと笑ってるよ。今日は出血大サービスだよ。観賞価値の高い男だなぁ。
そういえばさ。「山田さんの行きたいところがあればお連れします」ってここに来たんだよね。なのにさ、あたし候補をたくさん出しただけであと全部神崎さんに任せっきりじゃん? 駐車場もレンタサイクルもお寺も神社もお餅屋さんも、全部調べておいてくれたのかな? あたしはずっと一人で盛り上がってて楽しんでるけど、神崎さんは楽しんでるのかな? あたしに付き合ってくれてるだけなんじゃないのかな?
そう思い始めたら、なんか急に不安になって来た。
え? 不安? 不安ですと? なんで?
「ごめんね~」な気持ちになるとかならわかるけど、なんで不安? 何が不安? えええ? 自分でもわからん。けど、これは明らかに「不安」だ。
あたし、どうしちゃったんだろう?
そっと後ろを振り返ってみると、神崎さんがぼんやりと花を眺めていて、あたしの視線に気づくとニコッと笑ってくれる。なんだろなーこれ。なんかあたし、勘違いしそうだよ、この神崎さんのニコッ。なんだかなー……。神崎さんがぼんやりしてる時って一体何を考えてるんだろう? あああ、なんか漠然と不安。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます