第74話 ドS!

 神崎さんの言うとおり、ちゃんと少し経ったら風が止んだんだよ。周りには同じようにお父さんにしがみついてる子供とか、お母さんに抱っこされてる小さい子なんかがいっぱいいてさ。あたしゃ子どもかいっ! って思ったら、抱き合ってるカップルとかもいて、急に恥ずかしくなったんだよ。あたし、あれやってたんかい……とか思ってさ。


「大丈夫ですか? 随分強い風でしたね」

「うん、びっくりした。あいたたた、目ん中、砂が入った」

「見せて」


 あたしが神崎さんの方を見上げたらさ。神崎さん、あたしの頬を両手で包むようにして覗き込むんだよっ! ちょっ……タンマ! なんかこれ、キスしそうじゃん! しないけど、わかってるけど、いや、なんつーのよ? 神崎さんの顔が近づいて来て思わず目を閉じちゃったんだよ。


「目を開けて下さい。見えません」


 そりゃそーだろな、でもこっちはそれどころじゃねーんだよ! そんな真顔で接近すんなー! あんたちょっとでいいから、自分がかなりイケメンだという事を自覚しろ、心臓に悪い!


「目を開けているのが痛いんですね。んー……目薬はお持ちですか?」

「無い」

「じゃあ暫く目を開けていてください、涙が大量に出てきて砂を洗い流してくれますから」

「無理ー」

「では、僕が開けておきます」


 え゛……。神崎さん、あたしの顔を押さえたまま、親指で瞼をこじ開けて固定しちゃった! 拷問だー! まばたきさせろー!


「うあ~……」

「我慢です」

「悪魔ー!」

「ほら、涙が出て来ました。もうちょっとの辛抱です」

「呪ってやる、祟ってやる」

「可愛いですね」

「あんたドSだろー!」

「その気があるかもしれません」


 やっと神崎さんが放してくれたんだけど、もう涙いっぱい出ちゃってさ、お陰で砂も取れたんだけどさ。あたしゃー神崎さんがドSだと確信したんだよ。


「さ、行きましょうか。もうすぐそこが対岸のようですよ」

「ううう~」


 確かにすぐだったんだよ。500mくらいだったんだよ。でさ、ここの凄いとこって、借りた場所で自転車返さなくていいって事。ちゃんと対岸側にもあるんだよ。そこで返せばいいんだよ。なんか遊覧船乗り場とかあってさ、モーターボートなんかも走ってていろいろ楽しめるみたい。


「山田さん、お疲れではありませんか?」

「うん、全然。その辺散策しようよ」

「すぐそこに籠神社と言うのがあるんです。小さな神社ですが、伊勢神宮の元になった神社ですよ。行きませんか?」

「行く!」

「それでは参拝したら、天橋立が一望できるところで少し休みましょうか」

「うんうん! そうする!」


 てわけで、あたし達は自転車をそこで返して、神社に向かったんだよ。



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