第71話 ドキドキするやん
何故かさ、カーナビ見てると北に向かってたのよ。北だよ北。日本海側だよ? どこ行くんだよ? 京都縦貫に乗って僅か30分で日本海側に出ちゃったんだよ。
「宮津?」
「そうです。日本海ですよ。東京に居たら滅多に京都の日本海側など行けないと思いまして、今日は思い切ってこっちにしてみたんです。それに実は京丹波からだとどっちへ行っても大して距離は変わらないんですよ。それなら折角晴れているんですから景色を楽しまないと勿体無いですから……あ、見えて来ましたよ。あの辺ですね」
「何が?」
「天橋立ですよ」
あ・ま・の・は・し・だ・て~!
「はあ~~るばる来たぜ、は~しだて~」
「函館です」
「わかってるってば」
神崎さんはその辺の駐車場にゴ……レガシィを停めて、クルマを降りた。
「ここから既に潮の香りがしますね」
「え? そう? わかんない。竹輪の匂いはするけど。あ! ねえ、見て見て神崎さん、ボンネットバス!」
「珍しいですね。ここはボンネットバスが現役で働いてるんですね」
「可愛いね~、初めて本物見たぁ~」
嬉しくなって天橋立駅の前に停まってたボンネットバスをスマホで撮ってたら、神崎さんがこっち見て笑ってんだよ。笑ってんだよ? あの神崎さんが。あの眩しすぎる笑顔でさ。萌え死ぬだろーが。しゃーないし、思いっ切り平静を装ったりするんだよ。
「ごめん待たせて。行こ」
「はい」
ここの通りってさ駅前だから結構交通量多いんだよ。歩道もさ、幅が狭い上に観光客とか多くてさ、あたしが歩いてると結構すれ違う人の迷惑っぽいんだよ。だから神崎さんの真後ろにくっついて歩いてるんだけどさ。どう考えても神崎さんよりあたしはみ出てるんだよね。
とか思ってたらさ、急に曲がったんだよ。なんかさ、仲見世通りつーか表参道つーか、そんな道。両側にお土産屋さんとかあるんだよ。ゴールデンウィークの前の週だってのに、結構混んでるんだよ。これゴールデンウィーク中だったら圧死してるよ。てか、あたしの周りの人が被害者かも。
「山田さん、大丈夫ですか?」
「うん」
でもさ、迷子になっちゃいそうなんだよ。しゃーないからさ、あたし、神崎さんのシャツの裾を掴んだんだよ。だってさ、ほら、何? デートとかそーゆーのじゃないしさ、別に付き合ってたりするわけでもないしさ、腕組んだり手ぇ繋いだりとかできないじゃん? でも、こんなとこではぐれたら大変じゃん? だからね、シャツの裾をね。折角今日はオーバーシャツにしてるしね。
そしたら神崎さん「ん?」って顔して振り返るんだよ。だもんだから、あ、これマズかったかなとか思って、上目遣いに見ながら手を離したんだよ。すんませーん、みたいな感じでさ。そしたら神崎さんてばちょっとだけ口角上げてさ、いきなりあたしの手を握って来たんだよ! え? アリか? それってアリか?
「迷子になったら大変です。今だけでもこうしていてください」
「あ……うん」
てかさ。ドキドキするやんっ!
なんかさ、すべすべしててさ、大っきくてさ、ひんやりしてるんだよ。なんか気持ちいいんだよ。ヤバい、あたしの手、汗っぽくないかな? ベタベタしてたら結構恥ずかしいよな。
「これですよ。4軒のお茶屋さん。ほら、見えるでしょう? 『知恵の餅』って。これが食べてみたかったんですよ」
「へ~、美味しそう!」
「ここの突き当たり、大きな門があるの見えますか? 智恩寺の山門です。三人寄れば文殊の知恵と言う言葉があるでしょう? ここは知恵の文殊と呼ばれていて、山形の亀岡文殊、奈良の安倍文殊と並ぶ日本三文殊なんです」
「あ、だから知恵の餅?」
「そうです。食べたら賢くなれるような気がしませんか?」
「するする!」
「ですが、今日はこちらが先です」
あれ? 智恩寺とやらを通りすぎちゃった。どこ行くんだ?
「山田さん、天橋立往復7.2Km歩けますか?」
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