第64話 しーん
知らぬ間に寝ちゃってたんだな、これが。家の中しーんとしてて。神崎さん出かけちゃったのかな?
「神崎さーん」
しーん。
「おーい、マスター」
しーん。
「Mr.ミドリ安全」
しーん。
やっぱ出かけたんだ。まあ、Mr.ミドリ安全で返事されてもアレだけど。
こうして見ると、この部屋広い。いつも神崎さんと一緒に居たからそんなに広いって感じもしなくて、ちょうど良かったんだけど。一人になると何だかとっても広く感じるよ。こんな贅沢な部屋に住んでたんだ。
しっかし。いくらビンボーだからって、独身男女を同じ部屋に住ませるかよ、あの総務のハゲ親父は。てか、よく神崎さん承諾したよなー。きっとあたしだから承諾したんだろうな。フツーの若い女の子だったら、神崎さんだって間違い起こすかもしんないもんね。その点相手がカバなら間違いの起こしようがない。そこに起こり得るのは「カバの花子と飼育係の愛情物語」であって、決して「29歳物理的太っ腹女子と31歳万能イケメンの恋物語」ではない。……って自分で考えてて凹むわ。
そう言えばさ、会社でも神崎さんと一緒、行き帰りも神崎さんと一緒、家でも神崎さんと一緒。あたしが飼育係神崎さんと別行動なのって、お風呂とトイレくらいじゃん。この二つって超プライベート空間じゃん? それ以外ずっと一緒だったんだ、この一週間。なんか久し振りだよ、一人で居るの。
でもなんだろ? 伸び伸び羽を伸ばして、って感じじゃないんだよね。一言でいえば……。
淋しい。
なんで一緒に居てくれないんだよー!
いえね、別にね、神崎さんでなくたっていいんだよ? 誰だっていいんだよ? たださー、ほら、あたしとしてはさ、なんつーか結構強烈な二日酔いだったりする訳でさ、神崎さんが留守の間に死んじゃうかも知れなかったりとかする訳でさ。
神崎さんが帰って来た時にあたしの死体がドーンって転がってたら、やっぱほら、神崎さん悲しくて泣いちゃうでしょ? 泣かねーか。泣かねーな。泣かねーよ。110番に通報して終わりだよ。いや寧ろ保健所だろ。あ、『保健所だろ』と『モヘンジョ=ダロ』って似てるなぁ。似てねーよ。
それにほら、一昨日みたいにさ、ドロボーとか来るかもしんないじゃん? いやあれは神崎さんだったけどさ。そんな時に、二日酔いでグルグルしてるあたしがさ、撃退できなかったりするわけじゃん? それに今は昼間だから、玄関の灯り点けたって無意味だしさ。二日酔いで中華鍋なんか振り回せないしさ。
そーゆー理由なのよ? 別に神崎さんでなくたっていいんだからね、ヨッちゃんでも浅井さんでもガンタでも。おやっさんなら大歓迎! 勿論神崎さんでもいいんだけどさ。……んーと。やっぱ神崎さんがいいかな。
あーもう、とっとと帰って来いよ、神崎! さみしーだろうがっ!
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