第52話 好きなの?
今日のあたしは珍しい人と一緒にランチを食べている。「ランチを」としたのは、あたしがお弁当でその人が食堂のBランチだったから。
ここの社員食堂はお天気のいい日はテラスを解放して、屋外でも食べられるように屋外用テーブルセットを出すんだよね。で、あたしらはそのテラスの一番いい席――お花畑が良く見える席――をゲットして、そこで昼食を食べてる訳なのよ。
「チューリップ綺麗すね」
「うん、あたしチューリップ大好き! お父さんがあたしのことチューリップみたいに可愛いって言ってくれたんだ。今じゃチューリップ体型だけどさ、あははは」
「花ちゃん、チューリップより可愛いすよ」
「もー、ガンタってば上手だね。何も出ないよ。駄洒落くらいは出るかも。イベントのいい弁当! とか。あははは。世紀末的にスベったねー、あははは」
「その『あははは』が可愛いんすよ」
「えーそうなの? 変なのー、あははは」
そ。あたしは今日はガンタと一緒にランチしてるのだ。午前中に神崎さんにペシャンコにされてたんでランチ誘ってみたら、このテラスの事教えてくれたんだ。
「ピンクのチューリップって花ちゃんぽいすね」
「え、そう? あれ、ピンクダイヤモンドって言う品種なんだって」
「へー、詳しいんすね」
「神崎さんが教えてくれたんだよ。あの小っちゃい青いのはネモフィラって花の、えーとナントカブルーって品種だって。ナントカブラックともうひとつ品種の名前言ってたなぁ……セニョリータだったかな、なんかちょっと違うような気もするな」
「神崎さんかぁ……」
あ、やべ。禁句だったかな。
「Bランチも美味しそうだね。焼肉とか唐揚げとか、そういう脂っこいもの、今週はずっと食べてないなぁ」
「何食べてるんすか?」
「ヘルシーな和食だよ。焼き魚とか酢のものとか。お弁当見たら大体わかるでしょ? 毎日こんな感じ」
「ダイエット?」
「そーゆー訳じゃないけど、ちょっと気にしてるって言ったら、神崎さんがカロリー計算してヘルシーなご飯を作ってくれてるんだ。あたし結構たくさん食べるから、蒟蒻とか茸類とかカロリー低くて食物繊維の多いものをチョイスして嵩増ししてくれてるみたい」
「ふうん……」
「なんか料理が趣味みたいだよ?」
「そうすか。ま、そうでなきゃいくら同じ会社の人でも、わざわざ他人のダイエットに合わせてご飯調整したりしないすもんね。普通は自分の食べたいもの作りますよね」
そっか。神崎さん、自分の食べたいものじゃなくて、あたしに合わせてくれてるんだ……。もしかしたら、本当は豚の生姜焼きとか鶏の唐揚げとか焼肉とか食べたいのかも知んないよね。
「神崎さんは痩せてるし、もしかしたら自分の食べたいものが丁度ヘルシーな物だったのかも知んないすよ?」
「へ? ああ、有り得る。あの人、食も細いみたいでさ、あたしの5分の1くらいしか食べないんだよねー。彼こそ焼肉ガッツリ食べた方がいいよね」
「180チョイ位すかね」
「182だって」
「65キロあるのかな?」
「さあ? でも脱いだら結構筋肉質だったよ?」
「脱いだら?」
「うん、お風呂上りに……」
はっ! しまった!
「お風呂上りって神崎さんのっすよね?」
「あ、え、うん、まあ、そうね」
「なんでお風呂上りに花ちゃんが神崎さんの部屋にいるんすか?」
ヤバい、なんとかして誤魔化さないと。
「あ、ほら、あたし、夕ご飯神崎さんに作って貰ってるじゃん? だからその、ほら、神崎さんとこ行ったらまだお風呂に入ってて、それでそのままそこに居座って待ってたってゆーか」
「合鍵持ってるんすか?」
花子ピーーーンチ!
「えっ? あ、まあ、そうね、持ってるかな。ご飯食べるからさ」
「一緒の部屋で寝たりとか?」
「する訳ないじゃんっ! とーぜんあたしは自分の部屋で寝るよ!」
「そうすよね。まして一緒のベッドとかないっすよね」
ここで神崎さんなら「そうですね、山田さんと一緒のベッドでは、僕がはみだしてしまいます。最悪の場合、山田さんが寝返った瞬間に僕は圧死ですね」とか言うに違いない。想像できるだけにムカつく。
「有り得ない有り得ない、ぜーったい有り得ない」
「ねえ、花ちゃんてさ……」
「ん?」
「神崎さんのこと好きなの?」
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